番外編〜楓〜前編


[06]敵


担任が来ると皆何もなかったかの様に涼しい顔で席に着いた。
「どうした?松岡。上履きを履いてない様だが…。」
イジメの事実をまだ知らない担任は聞かなくてもいい事を尋ねてくる。
「その…。」
正しい答えなど見つかるはずが無くて、黙りこんでしまった。
さすがに怪しく思った担任が、眉をひそめて私を見てくる。
「先生、松岡さんの上履きここにありますよ!」
和佳が私の上履きを手に立ち上がる。
「斉藤、何でお前が持ってるんだ?」
「さっき松岡さんと話してた時に、ちょっとふざけてて私が持ってたんです。ね?松岡さん。」
和佳が満面の笑みで私に問いかけてくる。
「…そう…でした。すいません、先生…。」
私が立ち上がって和佳の所に上履きを取りに行くと、
「もっと上手く言い訳しろよ。馬鹿。」
和佳が小さな声で私に耳打ちしてくる。
「…そうか。まあ解決した事だし、ホームルーム始めるぞ。」
担任はただならぬ雰囲気を感じながらも気付かない振りをしているに違いない。
それが担任の話し方から感じとられた。
敵は周りの生徒だけじゃない…。
知らん顔するだけなのも敵と一緒だ。




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