番外編〜楓〜前編


[11]涙


太陽さんが私の事を覚えているのかどうかは分からないけど、私は覚えていた。
由紀姉の結婚式、由紀姉の幸せそうな顔の横で笑う太陽さんを。
由紀姉のお葬式、誰よりも悲しそうにしていた太陽さんを。
きっと優しい人なんだろう。
だから今も…沈黙が続いてるんだろう。
「やっぱり…優しいんですね、太陽さんは。」
そう思ったら、自然に言葉が出た。
「…覚えてないですか?私の事…松岡楓っていうんですけど。」
私がそう言うと、太陽さんは少し考えて
「由紀子のいとこの楓ちゃんか!」
と答えた。
覚えててくれたんだ…。
「思い出してくれましたか?…結婚式と由紀姉のお葬式で会ったぐらいですもんね。」
太陽さんは小さく頷いた。
「聞きたい事があるなら聞いてもいいですよ。」
そんな太陽さんを見ていたら…誰かに打ち明けてしまおうと思えた。
でも自分から話すのは気が引けて、こんな言い方になってしまった。
「…この髪…誰かに切られたの?」
太陽さんは鏡の中の私を見ながら真っ直ぐに質問をしてくれた。
「まぁ…。…イジメられてるんですよね、学校で。髪の毛切られて、たまらず学校飛び出しちゃって。」
あんまり心配をさせたくなくて、無理に笑ってみたけど上手く笑えなかった。
「いつから…?」
「高校2年なってからです。今年入ってからですね…。きっかけとかは無かったですけど…。」
太陽さんの質問に答えていると、今までの苦しさを思い出してしまった。
「…もうすごく辛くて…死にたいって思う時もあります。隕石が落ちて、地球が無くなったらいいのに…って。」
私はいつの間にか泣いていて、そんな事を口にした。




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