〜第5章〜


[06]朝6時49分D


「いやそんなことな」
「正直に言ってよ」

清奈がピシャリと僕の言葉に割り込んだ。

「私は、お世辞で心無い褒め言葉よりも、むしろ思ったことをハッキリと言ってくれたほうが嬉しいから。」

なるほど。
そういう考え方か。清奈らしい。

「じゃ、じゃあ……あんまり口には、合わないかな……」

折角作ってくれたのにこんなことを言うのは僕の良心が痛たまれなかったが、清奈の意見を尊重し、キッパリと述べた。

「そう……慣れないことしちゃって悪かったわ」
「謝らなくてもいいよ。清奈は僕の為に頑張ってくれたんだろ? その気持ちだけでも僕は嬉しいんだから、な?」
「……ありがと、悠」


すると

「わ〜! ハンバーグだ〜!」

ハンバーグは絵夢の好物だ。ちょうど部屋から戻ってきた絵夢は、いただきますも言わずにフォークでかじりついた。

モグモグと口を動かしていった言葉は

「あ〜! このハンバーグ、甘くておいし〜!」




清奈が茫然。
僕も同様だ。

きっとこいつは
『ハンバーグ』ならば味は何でもお構い無しらしい。どんな味覚してるんだってーの。






「さて、と」

清奈は伸びをした。
心の底からくつろいでいる顔。
「悠、お風呂沸かしてくれる?」
「ん……ああ! そうか……分かった」

反応、するよなあ?
男なら誰しも。


僕は立ち上がってリビングから風呂場へと向かう。

シャワーで風呂釜を流して洗剤をまんべんなく付ける。

そんな動作をしながら、思う。

これから毎日、清奈と生活していくのか……。
雑居、というやつだろうか。
一応清奈は居候という形になっている。

それはつまり

もちろん
当然
必然
あたりまえだが

風呂場を共有していくことになる。







や、やべっ!!
顔に出る、出るから止まれ、僕の脳。
川柳っぽく言ってみた。
清奈も、女の子だもんなあ……。
どうしよう……。







「そろそろ沸いたよ」
「ありがと、悪いけど最初に入らさせてもらうわね」
僕の部屋で、フェルミを軟らかい布で磨きながら言った。それを再びネックレスの形に戻し、清奈は立ち上がる。

「フェルミはここに置いとくわ」

机の上にフェルミを置き、部屋を出る。

「あと、当然のことだけど」

ドアを閉める間際に言った。

「見たら殺すから」

はい……分かってます。


――――――――――――
風呂場へ通じる扉の前で、私は上着のボタンに手をかけた。

やっぱり

自分の家じゃないところで風呂に入ることになると、どうしても視線を感じてしまう。
最近、恥ずかしいという感情が起こってきた気がするなあ……。
昔は、他人に興味は無かったけど。
あいつのせいだ……。
あいつと会ってからずっと私はおかしい。

『清奈』

あいつに
私の名前を呼ばれただけで私はかつてのタイムトラベラーの私じゃなくなる。
もっと
私は
悠に優しくしてほしい。

そして

悠を、絶対に、私のものにする。
だから、絶対に、あの子に勝つ。
悠が、私以外の人を見るなんて考えられない。

脱いだ制服や下着を畳み、風呂場へと入った。
白い湯気が立ち込めている。
ひとまずカランを捻って温かいシャワーを全身に浴びる。

ふう……
気持ちいい。

今日は本当に色んなことがあった。

悠と戦って、ネブラと戦って、シヅキの情報を掴んで、そして悠の家に住むことになった。

今日は疲れちゃったし、早く寝ようっと。


――――――――――――

「絵夢、もう寝る時間だ。支度しろよ」

全員風呂にも入った所で、僕は絵夢の部屋に布団を敷く。
「は〜い」

敷き終わった。
3秒後に布団の中に滑り込み、0.5秒後には寝ていた。
早寝のギネスに今度挑戦させよう。

電気を消して自分の部屋に向かう。



「清奈の布団は父さんと母さんが使ってるのがあるから、それでいいな。場所は何処の部屋に使ってもいいから」
「布団はいらないわ」

え?

制服を着て寝るとシワがいくとのことなので、僕のパジャマを着ている清奈。すこし大きすぎたようで、ダボダボだ。

「ここで寝るの」
「……」








清奈さん。
そろそろ自重した方が良くないでしょうか?
家に住むのを千歩、いや、万歩譲って許可したが、いっしょに寝るぅ!?
そればかりは頂けませんから。
分かったか?
それがまかり通ったらな。理性が崩壊するからよぉ!

「お前、何のために私がこの家に来たか、理由を忘れたの?」

え……。
それは、たしか……。

「お前が寝首を取られないように私が守るってわけ。忘れたの?」

じゃ、
じゃじゃじゃじゃ
あじゃじゃじゃじゃ

「この部屋にいないと、いざという時にどうするのよ」
「あの……じゃあさ、せめて布団は分けてくれな」
「やだ」
「せめて……」
「一緒に寝るの」

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.