〜第5章〜


[05]朝6時49分C


「ふ……ふ〜ん」

「この子が悠の妹?」
「うん」
「初めまして、今日からここでお世話になるわ」
「……」


ん?
絵夢、どうした?
僕の腕に抱きついたりして。
おい、もしかして
怖がってる……?

「……仕方が無いわ。それもそうね。私みたいな人が急に押し掛けたら、怖がるのも無理は無いかもしれないわ」

清奈は、自分の身の程をわきまえてか、そんな言葉を僕に投げ掛けた。
心なしか、寂しそうに見える。

「絵夢、怖がらなくてもいいんだよ、とっても優しい人だから、な?」
「優しい人……なの?」
「うん、優しい人だよ」

絵夢は清奈と目を合わせた。

すると、清奈は








まるで、誰にも見せたことが無かったかのような、清奈を表した。

頬が緩み


優しい笑顔になった。


それは、僕でも
いいや
清奈を知る人なら誰もが、息を飲んだ。


これで僕の中で、更なる確信に変わる。
清奈は、決して、冷徹な人間では無い。
こんな笑顔を向けられるのは、ただの復讐者じゃ無理。似せることすら叶わないだろう。


そう、きっと彼女は。
【あの頃】の清奈は、決して死など迎えていないのだ。


「……ほんとだ」

絵夢は、その深緑の中から現れた木漏れ日のような笑顔につられ、同じく笑顔を返した。

「……うん、だってお兄ちゃんのお友達だもん! 絶対悪い人じゃ無いよね!」
絵夢は
絵夢なりの友愛の印かどうかは知らないが

「おい……絵夢?」

清奈に飛び込んで抱きついた。
絵夢の頬を清奈の胸の辺りにスリスリする。

「あ、お姉ちゃん、割りとおっきいね」
「……え?」

直ちに絵夢を清奈から引き剥がした。
こいつは僕の日常をどれだけ乱せば気がすむんだよ。
「今なんて言ったの?」
「だから……モゴモゴ」

僕は絵夢の口を手で抑えた。

「何でもない何でもない。それより掃除だ掃除!」







さて、暫く後のこと。

「和室とリビングは終わったわ」
「ああ、ありがとう。じゃあ次は……」

さすがは清奈、仕事が早い。

「もう無いかな。ゆっくり休んでいいよ。戦った後だから体も疲れてるだろ?」

「それは大丈夫。でも、折角だからゆっくりさせてもらうわ」

絵夢はというと、毎度のことだが、テレビを見ながら晩ごはんができるのを待っている。
今ちょうどテレビには【おじゃる丸】が映し出されていた。
きっと中学一年生でも何かしら得られるものがあるのだろう。
ちなみに僕はノーサンキューだってーの。


「そうだわ!」

何か思いついたらしい。

「晩ごはん、私が作ってあげる」

へ?
ああ……そう?
でも……。

「分かった、じゃあ頼んだ。冷蔵庫にあるもの何でも使っていいからさ」
「分かったわ」

そう言って台所へと向かう清奈。

《セイナが晩ごはんを……》
「ああ、同じことを考えてるよ、パルス」
《……楽しみです》

楽しみなのかよ!!







「出来たわ。イギリス育ちだから洋食しか出来ないけど」

出てきたのはハンバーグ。見た目、上出来。
盛りつけかたが綺麗。
この点は僕よりも素晴らしいだろう。小さいけど評判のある洋風レストランに出てきそう。ご丁寧にサラダまで。

「……白ごはんは?」
「あの機械の使い方が分からないから作って無い」

おいおい……。
まあ、仕方が無い。
問題は白ごはんの有無じゃない。

念のため、ハンバーグをナイフで一部分だけを切り取り、フォークで突き刺した。

いざ目の前にして、少し心臓が鳴る。
まず

僕は清奈がイチゴジャムパン、及びイチゴ関係のもの以外を食べている所を見たことがない。
普段の学校で昼食として食べてるのはイチゴジャムパン、イチゴ蒸しパン、イチゴ果肉入りのゼリー、生のイチゴを持ってきたこともある。

そんな清奈が作った、ハンバーグ。

相応の覚悟を決め、僕は口に入れた。
どんな味であろうとも、まずは褒めてあげよう。そして感謝しよう。いくらなんでも人間が食えるものぐらいは作れるだろう。大丈夫、うん、大丈夫、だいじょ













「美味しいでしょ?」

ああ……
あれ、僕、なんで泣いてるんだろう。
覚悟は決めていた。
数秒前まで絶対に褒めてあげよう、と自分の中で決めた誓いは、呆気無く崩れ去った。
ハンバーグって、肉で構成されてるよな?
なんでイチゴの味かするんだ?
もはや錬金術なみの合成能力。
かける言葉がない。だってイチゴだし。

「なんか、隠し味入れた?」
「イチゴピューレよ」

それ、どういう発想?
トマトピューレなら分かるが、イチゴか?
赤けりゃ良いってものじゃないぞ。

って
あれ?

「……美味しくなかった?」

「……う」

うわ〜
ヘコんでるよ、清奈が。

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