〜第4章〜 黒の男


[16]昼3時45分


「あ……ああハレン! 僕は大丈夫だよっ!」

不自然に声が張りあがる。だってさあ……
男ならどうしても思っちゃうんですよ。
おっきいって。
触りたいって。
舐め……

さあ!! これぐらいにしましょう!! はあ!!

「相沢くん、汗だくだくですよ。大丈夫ですか?」

大丈夫じゃないよ。
だからハレン、近づいたら心臓悪いって……

ピト


次の瞬間。
ハレンの額と僕の額がくっつきあいましたのです。

顔が近い!
ハレンさん!?
おっぱ(自重)も近いからっ!!

「熱は無さそうですね〜」

「うん、無いから。無い無い。だから……」

離れてください。
ちょうど僕の胸の辺りに、あなたの大きなお饅頭が押し付けられかねないので……

ズシンッ!!

今度はなん……?
じ……地震か!?

「きゃっ!」




ハレンはびっくりして、僕の体とハレンの体で、漢字のTの字に重なりあいました。ハレンが横棒で、僕が縦棒だ。

何を意味するか?
いや、もう、別に言わなくても構わんだろ?


「は……はわわわわわ!」

思わずハレンは起き上がって立ち上がる。

「だ……大丈夫ですかあっ?」
腕をグルグル回して言うハレン。
大丈夫……ではないな。
だって完全に顔に押し当てられたし、それを。それで平静さを保てる男などいようか? いや、いるはずがない。


《あ、あの》

側で顔を赤らめながら、白衣の妖精パルスがそこに立っていた。

「うぅ……ごめん。それにしても今の地震は……」

《ここはユウの深層心理です。先程の地震は……その……ユウが心の中で興奮したので……その……》

「分かった。分かったからそれ以上喋らないでくれ。一生のお願いだ」

「こ……興奮?」

いや、ハレンさん。
自覚無しですか?
まあ確かに、額と額をくっつけるなんて芸当、普通は恥ずかしくて出きる訳ないわな。

「え……う。相沢くん……もしかして……」

ハレンは、さっきまでの一連の出来事を思い返している。そしてすぐに気づくだろう。

「うぅ……相沢くんの……えっち」

言うな!
それを!

《き……気をとりなおして始めます!》

パルスは、何か不自然な笑顔を浮かべて言った。

「そ……そうですね! 始めましょう相沢くん!」

ハレンも同様に言った。

「う……うん! もうどんどんじゃんじゃんがつがつきりきりやってくれ!」

僕も例外では無かった。
何だこの空気。

《それではこの空間に身を潜んで、自分の姿をくらましながら相手に攻撃してください。私も同様のことをします》

ライボルトはご存じの通り射撃銃だ。よって、清奈とは戦うスタンスそのものが違う。清奈は間合いを制し、相手の隙に剣を斬り入れる。だが僕は、正面衝突はなるべく避けるべきだ。その為には、ネブラと戦うときは、清奈の援護射撃という形になる。
だが、今回清奈と戦うと近距離戦は必至、だが近距離に入られると即時に負けが決まる。

よって一つの作戦として、地形を利用する、というのがある。

例えば林などの障害物が多い所。地の利というものは大昔から言われてきているが、それだけあり時として形勢が変わることもあるのだ。

だから僕の勝ちへのポイントは、近距離は勝負せず、弾くことを最優先にする。そしてなるべく清奈に位置を特定されないようにする。後は、短期決戦で挑む。パルスが提案したのはそんなところだ。


そして今、僕は空を針が幾本も突いているような、そんな異様な光景が広がったクリスタルの平原に、僕はいる。
パルスも同様にライボルトを手にして、このクリスタルの林の中のどこかにいるはずだ。
場に緊張が走る。
クリスタルだから、林の代わりである細長く高い逆さまの氷柱のような樹々は、中に水が含まれているかのように、透明でかつ水色の世界が広がる。
青は人の集中力を高める色だ。僕は全神経を研ぎすましてパルスの気配を探る。

でも
分からないな……。
なんとなく人の気配はするんだけど……。

少し前方に動く。
無数のクリスタルの林をかいくぐる。
クリスタルだけあって、僕の体が透けて映る。
そのせいで、障害物は沢山あるが見通しは良い。

首を回し後方も確認するが、パルスもいないし、ハレンもいない。
今は安全だ。
そう思い足を更に前方に向かわせ走ろうとしたところで……
トトトトトスッ

細針が僕の後頭部に、刺さった感覚。

痛いよ、
あれ?
ちょっとちょっと!
今後ろにいなかっただろ?

《考えが甘すぎます、ユウ。辺りに誰も見えないからといってその場が安全という保証はないのですよ》

「う……ごめん……って、今撃った?」

《撃ちはしましたが、魔力を込めていないので対した傷にはなりません》

「そうか……パルス、もういっかい頼む」


というわけでラウンド2。
今度は大丈夫だ。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.