〜第4章〜 黒の男


[17]昼3時54分


再び気配を探る、も

やっぱり分からない。
誰かが近くにいることは分かるけど、具体的にどの方向にいるのかまでは分からない。
感覚は、なんと例えられるか。
全方向から睨まれているみたいだ。
まずいな、仕掛けられてばかりじゃ絶対に勝てない。僕から仕掛けないと……。

「わっ!!」

何気なく右を振り向いたところで、パルスがライボルトを僕に向けて立っている――

反応する前に、あっけなく胸の辺りに3発程当たる。

僕が焦って撃った弾は、全く関係の無い方向へ飛んでいった。

「くっそお……なんで近くにいるのに気づかないんだ?」

《ユウは気配で私の場所を捉えようとしている。それは違います。自分の体を忍ばせるのに気配を消さない敵などいないのですから》

「じゃあどうやるんだ?」
《堪ですよ》

第六感てやつか?
んな無茶な。

《ですから、何度も繰り返して堪を磨くのです。それでは行きますよ!》

そういって再び始まる。





何回やられただろうか。
もう100連敗はしている。
でもそのお陰で、やられる前にパルスの姿を見る所までは出きるようになった。

《まだ遅いです。ユウならきっと出きるようになりますから、頑張って!!》

パルスは厳しいなかにも、こんな風に僕を励ましてくれる。飴とムチとはこういうことか。でも、パルスが僕の為に一生懸命相手になってくれている。


「今度は……」

右だ!
と思い振り向き、ライボルトも最速で向けて引金をひいたものの。

《逆ですよ》

僕の銃声とパルスの銃声が同時に聞こえた。
当然逆方向を向いて撃ったので当たるはずもなく、僕は背中にチクッとする感覚を覚える。

「な……なあ、パルス」

《何でしょう?》

「ちょっと休ませてくれないか」

パルスは首を横に振る。

《駄目です。体の疲労が極限まで高まってからが、本当の修行なのですから。あともう少しです、だからユウ、本当に、あと一歩ですから!》

「分かったよ……次は絶対に!!」

言うと再びパルスの姿が消えた。




気の遠くなりそうな程の時間が流れた気がする。
何度戦っても勝敗は変わらない。やっぱりダメ……なのか……?

『あと一息ですから!』

その声を思い出す。
パルスも回数を重ねていくにつれ、息を荒くして体力を失ってきている。しかしパルスは全く弱音を吐かない。
成長しない僕に呆れることもない。パルスも、そして僕も、清奈という大きな壁を越えようと必死なのだ。























そして
恐らく1000回は確実に入り、そろそろ僕自身が壊れ境地に入り始めた頃のことだ。

僕は、今まで感覚を便りに歩いていたのを止め、足を肩幅に開く。そして、目を瞑り、下を向く。


目を瞑る。そのせいで、視界は真っ暗になる。なんで、こんなことをしているんだろう。
目を開けて捉えられないものを、目を使わずに撃ち落とす。
キンという、先がとがっているように胸に刺さる
その、空気が
僕が別の意思によって動かされているようで。
不思議で。
シンクロして。

右手に、確実に、人指し指に引金がかけられていることを確認する。
僕に必要な物は、もうすぐ手に入る。
それは力でも技でも早さでも強さですら無い。
自己だ。
そのときだった。
僕は、僕自身を凌駕する。己の限界が、拡張され
追加された僕のキャパシティに新たな自分が宿る。

「……」

今、目の前に何十万本も、白銀の線が見える。

これは、僕の神経だ。

普通の人間の数億倍も、感覚器官が優れている。
もはや進化と呼べるこの僕の体
目を閉じているのに、そんな多岐に分かれた線が見えている。

その限界まで高められた、白銀の線、僕の感覚が
遥か遠くの、呼吸音を捉える。

僕は下を向いたまま、
ただその感覚に任せ、体に発せられた命令に従い、
もはや秒速340メートルを越えた。
人間の限界を越えた。
この力は、この力は、この力は!!

一瞬、
流れが逆転する。
世界が変形する。
今、僕は
目の前に緑の点が見えた。高速で無数に漂っているその点、
そして僕が銃を向けた途端、その点の動きはゆっくりになる。

そのときに察した。
言った。
この点は、時間だ。

「時間が、視えた」

と。


《ま……まさ……!》

パルスの声がそこまで聞こえた所で、僕の体は壊れたのか、その場に倒れこんだ。



目をなんとか開ける。
ああ、当たったみたいだな……。

パルスの左頬に、かすり傷が見える。
驚愕の表情を浮かべながら左頬を抑える。

《ユウ……貴方は……まさか……》

まさか……何だ。
でも、体が、もう動かないんだよなあ……。
そのまま、意識が、
フッと消えた。

重い深い眠りに……。

《ユウ……貴方は、10年前の戦いで……》

眠りについていった……。

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