〜第3章〜 清奈


[09]2007年 5月19日 午前10時30分


足立さんじゃないか!

足立さんというのは、入学式の日に初めて座った席で僕の後ろだった人だ。
あの時は確かずっと本を読んでたから話はしなかったけど…。

「最悪だなあいつら…女の子相手に絡むなんて…。」







「お前なあ!目ん玉ついてんねやったらボヤボヤ歩いてんじゃねえよ。」

「ご……ごめんなさい、…ごめんなさい。」

「謝りゃ済む思っとんのかおんどれ!」

「ご…ひっく…ごめんなさい…。」

「なんならな。その罰としてお前の体いじっても構わんよなぁ?」

「え…そんな…!やめて…ください…!」

「ほらほらあ!怖がんなよ。」

「やだ……だれか…助けて…。」


最悪だ。
足立さんが消え入るような声で助けを求めているのに、周りの人間は皆が皆
【誰か】警察を呼べ、と思っているわけか。



「やめなさい!」

このパーキングエリアの警備員らしき人が寄る。

「何をしているんだお前は!その子を離してやれ…。」

といった所で、

うわ!殴りやがった!

「貴様!公務執行妨害で逮捕するぞ!」

警官が勇敢にも立ち向かおうとしたのだが、

シュッ!

「………こんなところに…ドスがあるぜ〜?」
鋭利なナイフを懐から取り出した。
しかも足立さんにそれをつきつけたのだ!

「こいつは人質だ。殺してほしくなければな…今すぐありったけの金を持ってきやがれ!」
そのチンピラが脅迫し始めた。

「何てことを…!」
警官もうかつに動けない。

お陰で僕も動けなくなったじゃないか!

足立さんは立派な僕のクラスメート、しかも女の子だ。

今すぐでも殴られるのを覚悟して飛び込みたいのに……!フンギリが遅れたせいでこんなことに…。

僕はなんて……無力なんだ…!!

くそっ!僕がもっと早くにあいつらに飛び込んでいれば……!


そう自分に対し苛立ちを覚えていた

その時だった。




僕のすぐ左から、流れるような黒髪の少女が現れる。仄かなラベンダーの香りを残すかのようにすっと現れた。

清奈だ。

「ば…お前ちょっと…!」僕は清奈を引き止めようと肩を掴もうとするが、あっけなくその手が払われた。

ここで一つ言っておく。
僕が清奈を止めた理由は、清奈が危険だから、ではない。日常的にネブラという存在と戦っている清奈なら、チンピラなど平気で倒すだろう。ただ、加減できずにやりすぎてしまうから止めろ、というわけなのだ。
清奈が足立さん(チンピラはもはや清奈の眼中にすら収まっていないだろう)の元へと歩いて近づく。

「こら!君は離れて…!」警備員が清奈に言うが、
僕にしてみれば警備員のほうが離れるべきだ。

「そこのアマァ!調子乗ってんじゃねえぞ!ぶっ殺すぞこの野郎!!」

清奈に対する罵声も耳に入らないのか、いや、耳に入れようとすらしていないからか、清奈はそのまま動じないで歩く。

清奈!それはまずいって!近づけば近づくほど足立さんの命が危うくなる!現に足立さんの顔が青ざめてきているじゃないか!

「来るな!本当に刺し殺すぞ!」

「や……やん!」

ナイフを持っていない方の手で足立さんを引き寄せ、喉元にナイフをつきつける。

清奈もそんなチンピラに怖じけづく事もなく近づき、チンピラの目の前に立った。



「お前の前まで来たわよ?さっさと人質を刺し殺せば?」




周囲がざわめく。
僕もそのざわめきの一部だ。
あのチンピラを逆上させたらますます危険だろうが!


「っ………!!!」

「何やってるの?さっさと殺せばいいじゃない?」

「………このアマ…!!」
「あら、ごめんなさい。そのナイフは只の作り物だったのね。ま…お前みたいな社会悪って、えてして小心者ばかりだし…。」

「あん?」

チンピラは清奈の挑発にのり、足立さんを投げ捨てるように解放し清奈に近づく。

今だ!

僕は走って足立さんの元にかけよる。

「足立さん!」

「あ…相沢くん。」

僕は足立さんとチンピラとの間に入るように立った。

「離れるぞ!」

僕は足立さんの手を掴んでその場から猛ダッシュして立ち去った。

後は清奈がやってくれる。








僕が清奈の方を見ると、

清奈が胸ぐらを掴まれて持ち上げられていた。
ネブラと戦う戦士でありながら、肢体は女の子らしく華奢なお陰で、簡単に持ち上げることができるだろう。

「超可愛い顔した奴だと思ったのによ!そういうことを言う奴はお仕置きしないといけないなあ!」

またもここで警備員の制止の忠告が飛ぶが、二人とも聞いていない。

あのチンピラ、清奈の体の自由を奪ってボコボコ殴るつもりだ!

ところが、

チンピラは殴らない。

風で黒い髪がさらさら流れ、清奈はチンピラの目をジッと見つめる。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.