〜第3章〜 清奈


[10]2007年 5月19日 午前10時30分A


その目は、
決して動じない。ただチンピラの視線をただ見つめている。チンピラ用語でいうガン飛ばしなんかじゃない。チンピラごときには歯が立たない程の圧倒的な存在感がそこにはあった。

目は口ほどに物を言うといった諺がある。
今清奈はチンピラに対し、こう目で言っているだろう。

殴りたいなら殴れば?どっちにしろお前は負けて私が勝つから。

といった感じではなかろうか。

「うるさい……うるさいうるさいうるさい!うぜぇんだよ!」

同じ負けるなら一発殴って負けた方が良かったのか。チンピラはナイフを投げ捨て、清奈に思いきり殴りかかる!






そのチンピラのへなへな拳は、あっけなく清奈の右手で受け止められる。

「んなあほなぁ!」

清奈は完全勝利を確信し、普段から無愛想な清奈を見ている僕にしか分からないぐらいの僅かな笑みを浮かべた後、

「げぼっ!?」

清奈は左足を腹筋だけで高く振り上げ、チンピラの間抜け面に、可憐で白くさらさらな足で横に蹴った。

派手な効果音と共に、チンピラはギャグ漫画のように数メートル吹っ飛ばされた。




清奈は最後のとどめに、

無様なチンピラの姿の所に駆け寄って、見下ろし、
「悪いわね。私女の子だから、つい必死に抵抗しちゃった。今後は、女の子にむやみに手を出しちゃだめですからね?」

悪戯な笑みを浮かべ、
そして小さな問題児に優しくしつける母親のように言い放った。

「は…はい!」
チンピラは顔が引きつり、情けない声でそう返事をするしか無かった。

誰が見ても、勝敗は明らかであった。






その瞬間

パチパチパチ…
パチパチ…
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

クラスメートが、他校の生徒が、そして一般客も、

清奈の勝利を拍手で称え、喜んでいる!

僕は清奈の元に向かって走る。

それに続き皆が清奈の所に駆け寄って、清奈の周りをぐるっと囲むように人が溢れかえる。

「長峰さんすごーい!」
「とってもかっこよかったよ!」
「長峰さんサイコー!」


「え?あ…ちょっと…。きゃっ!?」

清奈が沢山のクラスメートの中にもみくちゃになっていくが、その顔は拒否の顔では無く、少し戸惑った顔をしていた。

でも…

嫌な顔はしていない。

まあ結果的には、足立さんも助かった訳で、よかったよかった…。



そろそろ出発時刻だ。
あんなあとだったので、予定よりも遅くなった。
おかげで清奈は一躍このクラスのスターになり、男子からも女子からも人気者になった。

それは…いいことだ。

人付き合いっていうものが無い清奈にとって、いい刺激になるはずだ。







もうすぐバスは目的地につく。
パーキングエリアから有山シーサイドパークまで10分程度のバス車内は、清奈とさくらちゃん、そして僕の会話が弾んだ。何より嬉しかったのは、清奈の口数が僅かながら増えたということだ。ドロップとビンゴゲームの時以外は、「うん。」とか「そう。」とかで一文節で終了するものばかりだった清奈だが、多少ながら会話がリズムよく流れ始めた。

清奈的には話を合わせる程度のことだと思っているらしいが、どうあれ僕にとっては嬉しい。

同じタイムトラベラーという仲間うちだ。こういう風に何気なく話して、つまらないことでもゲラゲラ笑えるような…(いや、清奈の場合はクスリと微笑むのがいい。僕的に。)関係になれば、僕にとっては万々歳である。


午前11時…

予定の10分遅れだが、無事に僕達1年4組一同は、有山シーサイドパークに到着した。

バスが徐行し、団体用の大きな駐車場に入る。そのまま前進後退を繰り返し、バスは止まった。
「忘れ物無いように!全員座った席を3回以上確認しなさい。あと!ゴミなんか残していったら一発殴るからね!」

というわけで

1回…忘れ物無し

2回…忘れ物無し

3回…忘れ物無し

ゴミも無し!

よっし、外に出て新鮮な空気を吸おう!




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