〜第3章〜 清奈


[08]2007年5月19日 朝10時12分


「次で最後ね!」

ガラガラとビンゴマシーンが動く音がして。

「最後は37番よ!」

ビンゴだ。


「はい、ビンゴでーす!」

僕は大きい声で瀬戸さんに報告する。

「どうやら最後は相沢のようね!でも商品リボンだけどいい?」

「別に構わんよ。」


瀬戸さんが、最前部座席から顔を出し僕の所に駆け寄る。

「はい、これ。」

透明な袋に包まれた青いリボン。それを瀬戸さんから受けとる。

ただ青いわけではなく、ところどころに金色の刺繍が入っている。

僕はさくらちゃんの言うとおりに、やってみることにした。

ビンゴカードを膝の上に置き、再び窓の景色を眺める清奈。



「長峰さん。」

清奈がこちらの方を向いた。

「これ……あげる。」

海色リボンを清奈に手渡しした。

「…なぜ私に?」

それを清奈は拒むことなく、受け取ってくれた。
拒む理由が無いだけなのかもしれないが、手と手が交わるその間には、確かな温もりが感じられた。

「何故って言われても…リボンだから、僕が貰うよりも清奈の方が似合うと思うし…。」

僕なりに、飾り気の無い言葉で、正直に…故にこの言葉は僕の本音なのかもしれない。
「ま…折角だから頂くわ。」

そう言いながら、透明の袋にセロテープで閉じられた簡易な包装を開けた。そして、その白い手のひらに、青いリボンが置かれた。それは、まるで世界で最も小さい青空。青いリボン、白い手…そしてその青空を優しい陽光で照らす太陽は、


清奈の、僅かな微笑みだった。


清奈は「ありがとう」という言葉は言わなかった。

でもそれは、分かっていることだった。

清奈は人を信じたり…ましてや礼をする…そんなことはしない。

冷たい人間だと思う人だっているかもしれない。

でも僕はそう感じない。
僕が期待していたのはそういうことではなく、
ただ…ネブラとか、そういう戦いからは得られない、その優しく緩む顔が見たかっただけ…。





いよいよ高速道路の看板に有山の文字が現れ始めた。

というところで、

「次のインターチェンジで降りるんだけど、その前にパーキングエリアで休憩するわ!向こうはトイレとか自販機とかが少ないから予めトイレをすませておくなり昼食を買うなりしてきなさい!!」

またもバスに響く瀬戸さんの声。

そしてバスは、最寄りのパーキングエリアに立ち寄る。
どうやら有山に向かう人は僕達だけではないようで、他校のバスも駐車場に止まっている。一般客も沢山いる。

「ご覧の通りここは一般客も沢山いるわ。間違っても変なトラブルを起こさないように!」





というわけで、各々が新鮮な空気を吸おうと外に出た。僕とさくらちゃんも出ようとするが、清奈は動く気配は無い。

「外に出ないのか?」

「私はここでゆっくりする。」

「…分かった。」










「相沢君…。」

「な…何?」

売店の前のベンチに、僕はコーラ、 さくらちゃんはオレンジジュースを買って横に並んで座った。

はたから見れば世間の男ども皆が羨むシチュエーションだろう。現に、自分のクラスメート、他校の男子、そしていい年した男までもがこちらを見ている…正直視線に押し潰されそうだが、この場を立ち去る気も無い。

「長峰さん…やっぱり嬉しそうでしたよ。」

「…空川さんも、そう思う?」

「ええ。長峰さんは素直じゃない性格なのかもしれませんが、きっと男の人と話すのが恥ずかしいからだと思います。だから…決して冷たい人じゃ無いんですよ。」

「うん……まあ、そうかな。」
コーラのペットボトルキャップを開ける。シュッと炭酸の抜ける音が出た。

すると

「さくら〜来て〜!」

女子クラスメートの一人がさくらちゃんを呼ぶ。

「あ…じゃあ、行ってきますね。」

「うん。」




そういうわけで今僕は一人でベンチに座りくつろいでいる。

ふと売店の店内を見ると、小さな牛乳パックの、いちごオレを見つけた。

……買ってあげよう。







「ありがとうございました」






という店員の声を耳に残し、僕の右手には、今日の昼飯のコンビニおにぎりをいくつかといちごオレが中に入ったビニール袋を下げ、バスに戻ろうとした、


その時だった。






「調子乗ってんじゃねえぞオラァ!」

何だ!?
ヤクザっぽい罵声がパーキングエリア中に響き渡る。そこにいた人間が、全員バス停の辺りを凝視していた。

「あ…あなたたちから…ぶつかってき…。」

「はぁ?調子こいてんじゃねえよ!人様の肩ぶつかって何だその言い草はぁ!」

あの人達を前にしてこんな言葉など言いたくないが、カラミが古典的だな…。

チンピラに絡まれていたのは…

ゲッ!!

確かあの人は…



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