〜第3章〜 清奈


[19]2007年5月19日 昼2時29分


「清奈、怪我は…ないのか。」

清奈は、ちょっと驚いた顔をして

「何故?」

理由を尋ねてきた。

「何故もなにも…あれだけ近くからボールを受けたんだから、突き指とかしてないかなって……。」

「……甘く見ないでくれる。」

う……
えぇっ、心配しただけなのに気に障っちゃった!?




「……でも。」

と思ったが、

「…まあ心配してくれた気持ちだけは受け取っといてあげる。」

と、答えてくれた。

そうして僕と清奈は皆の所に戻るのだった。






――――――――――――

「ねえ。」

私は瀬戸さんの所に寄る。

「敗者は勝者の言うことを1つ聞く、だったわね。」

「え?…………あぁ!」

どうやら忘れていたらしい。

「そういえばそうだったっけ。じゃあ……。」

瀬戸さんはビシッと私に指を指す。

「命令!来週の掃除当番を代わりなさい!」

「…掃除?ああ…あれね、分かった。」




瀬戸さんが後の残りは自由時間と決めたようで、私は特にすることもなくなった。

まあ…別に構わない。
今日はいろんな人と関わって疲れたし、少し1人になろうかな。

あの揺らぎのこともあるし…。
私は周りに誰もいなさそうな、海岸に足を運んだ。







「フェルミ。」

《揺らぎはまだあれから大きくなっていない。》

「ずっと停滞しているのね。じゃあ問題は無いかしら。」

《今の所はな。変化があればすぐに伝える。今は休んだらどうだ?》

「…そうする。」







もう各々が思い思いに遊びに行ってしまったらしい。私は木陰に腰かけて、涼しい潮風に当たることにした。


「清奈。」

全く、1人になりたいのにこいつが来るとは…。
でも…

「良いのか。」

「何が?」

「いや…みんな向こうに行ったのにさ。」

「私は1人になりたいの。分かる?」

そう言った。


「ああ…ごめん。邪魔しちゃった?じゃあ…僕は向こうに行ってくる。」

悠は私に背を向けてその場を去っていった。



悠の背中が間もなく見えなくなるというところで、

急に風が吹く。


それにしてもあいつ…。
最近私によく近づいてくるようになった。

正直言ってやるべきか?
ウザいって。

よく話しかけてくるし、私を心配してくれたりして……。

バカじゃないのかしら?あいつは私のことばっかりで自分のことは何ひとつ考えちゃいない。
ネブラと戦う?私と【一緒に?】

本当は自分の身を守るのに精一杯の癖に…。

なんで私にあれほどまで構おうとするんだろう。

そして、




なんで、







私はそれを拒まないのだろう。






あんな奴、1回で蹴り飛ばしてやれる。
でも、それを良しとしない自分がいる。



全く私らしくない。
あいつとはただのタイムトラベラー同士なだけ。それ以上でも以下でもない。余計な感情を持つなんて有り得ない。

そうなの?

今…こんなに

あいつの事を自分は考えているのに?







「フェルミ。」

《何だ。》

「揺らぎは?」

《…変わっていないが。》
「………。」





《セイナ。どうしたのだ?今日はお前に覇気が感じられんぞ。》

「…………うるさい。」







私はかばんの中からいちごオレを取り出す。

飲み口の部分に…えっと…ストロー?

それを突き刺した。



『たまたま見つけたんだ。遠慮しないで受け取ってよ。』

そんなことを言って私に渡してくれた。

他意があるのが丸分かり。無器用ね、あいつ。

悠が…くれた
いちごオレ…。








そうか…
そうだよね…。
私…
自分と同じぐらいの異性と話すのって、

あれが…初めてなんだ…。



そうして再び潮風が吹く。なぜか…さっきよりも風が暖かく感じられた。



言葉を交わすだけなら、あれだけ男子が集まったんだから日常的にしてる。
けれど、悠は特別。

悠だけは

言葉を交わすのではなく、話しをしている。

あいつだけが…どうしても心の側から離れない。
むしろ、いつまでも抱いていたいと…自分は思っている。

目を閉じると、

ふっと悠の顔が浮かんだ。微笑みかけている顔。
なんでヘラヘラ笑っているのかは聞かない。
私を見てくれているのならそれでいいのだから。

「悠……。」



その瞬間…だっ……た。

私の頭の中で、
悠と

【誰か】の

顔が…重なりあう。

【誰か】は…だれ?



その顔は、私の心の奥底で永久に封印したはずだった男。

私にとっての、越えられない死のイメージ。

その二人の顔が重なりあう。そしてその瞬間、気づいてしまった。

「あああああああああっ!!!」

私は木の幹をオモイッキリコブシデタタイタ……


木に止まっていた鳥が飛びたつ。

気がつけば、空はいつのまにか暗雲が立ち込めていた……。

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