〜第3章〜 清奈


[20]2007年5月19日 昼3時10分


《セイナ、大丈夫か?》

私を気にかけてくれているフェルミの声を聞いた。

《…やはり今日のお前はお前らしくないぞ》
「分かってるわよ。そんなこと……。今、あいつの顔が見えただけ。悠の顔があいつそっくりに見えただけ」
《悠があの男に見えた? ……それだけなのか?》

驚いた様子で私に問う。

《その程度でなぜお前はそこまで……。》
「……知らない。そんなこと言われても……分からない」

「分からない」なんて言葉、生まれて初めて使った。

そうだ。


今はクールになるんだ。少し落ち着こう。



「揺らぎが動き始めたわ。すぐに行動開始ね」
《無論だ。だが、今日のお前は調子が悪そうだ。調子に乗りすぎるなよ》
「分かってる」

悠と合流しなければ……。

「パルスに連絡して」
《了解した》



――――――――――――


《悠。フェルミからの通達です。円形広場で落ち合うとのことです》

例の揺らぎが大きくなった。僕も二回目なのに慣れたらしく、異変にはすぐに気づいた。

「ありがとう、パルス。すぐに向かうと返事してくれ」

僕は真っ先に円形広場に向かう。普通の人達は異変に全く気づいていない。
僕はひたすら走って、やっと円形広場に辿りつく。そして清奈の姿を見つける。

「遅い」

そうピシャリとまず初めに言われた。

「ごめん。これでもダッシュで来たんだけど……」

ほら、今の僕って息を切らしているだろ?

「じゃあ次は【超】ダッシュで来なさい」

そりゃないわ清奈さん。

「この揺らぎはいつのものなんだ?」

「ハレンのコンピューターが無いから、正確な時間は分からないけど……。それに揺らぎばかりが大きくなるばかりで、今に何の変化はない」
「今に何の変化も無い? ああ、この前のグレームドゥーブルの火事みたいにか」

ネブラの目的は、今以外の時間に渡って事件を起こし時間の流れを狂わせることだ。でも今回は何も異常は無いように感じられる。例えば有山シーサイドに止まる船が急に爆発したとか、観光客がいきなり消えたとか、そういう明確な異常が起こっていない。ただ何となく、嫌な予感がするだけに留まっている。

「どういうことなんだよ?」
「可能性を言うなら一つある」
「何?」

「さっきも言ったけどこれは私達をはめる罠、と考えることもできる」

罠……だとすれば。


確かに僕たちが来た今日の今の時刻に限って揺らぎ始めるなんておかしい。偶然にしては出来すぎだ。

「だから警戒して待つしか無いんだろ?いつの時間のものかはっきりと分かる異変が無い限り僕達は行動できないから……。」

「そう。それにもし罠なら、今にも異変が起こり始めるでしょうし」

それで話が終わったらしく再び木陰に戻ろうとする清奈。だが僕にはもうひとつ聞くべきことがある。

「……清奈」
「何?」

清奈は足を止め振り返った。

「これは罠かもしれない。それでも……清奈一人でネブラに立ち向かうのか。」

このことをはっきりしたかった。
清奈はいつもの無愛想な顔を浮かべる。でも僕は引き下がらない。なぜなら僕は清奈の味方だ。もし清奈が怪我をしたらそのとき誰が代わりに守ってやれる?

清奈が口を開いた。

「まだそんなことを言っているわけ? お前は」

その口調は明らかに拒絶している。

「何度でも言うさ。清奈一人じゃ危険だ。だから僕も行く。」

清奈は溜め息をつく。相当呆れられているらしい。

「馬鹿ね。危険だから私一人で行くんじゃない。」
「だからそれは……」
「というよりお前に私の心配をされる筋合いは無いの。自分の身を守るのに精一杯の癖に私に構わないでくれる?」

清奈はかたくなに僕を拒む。

「……仲間はいらないっていうのか」

清奈は少し間をおいて答えた。

「……ああ……もう」

清奈はかなり苛立っているが構うものか。

「そもそもお前は仲間と言えるほど強くないでしょう。たまたまパルスの契約者になって弱小部類のウルフ型を倒した所で一人前とは言えないの。お前にネブラの何が分かるわけ? お前に何が出来るわけ? 邪魔なのよお前は!」

もう話をしたくなくなったらしく、その場を去った。

「……じゃあ約束する」

僕はある決心をした。それは無謀なことに思えた。だがそれを絶対にやり遂げようとする意欲は尽きもせず吹き出している。清奈が『弱いから一緒に来るな』と言うのならば。

「僕に一ヶ月の時間をくれ。そして一ヶ月後、僕は清奈よりも強くなってやる」
「な……?」

清奈はとても驚いた様子で振り返る。

「清奈」

僕はポケットからタイムトーキーを取り出して清奈の前に突きだす。

「6月19日……僕と勝負しろ。それで勝ったら認めてくれるよな?」

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