〜第3章〜 清奈


[17]2007年5月19日 昼2時09分


なんともあっけなくやられてしまった僕、なんだかもう場違いな雰囲気が…。

さっさと内野から出ることにします……。
思えばここで初めてアウト。よって清奈が初めて内野に入ることになる。

コートの中には、二人の戦士。

恐らくは、永遠のライバルになるであろう二人。

瀬戸梓と長峰清奈。

僕が当てられたので、清奈からのボールだ。

「長峰さん。」

激戦が始まる前に、瀬戸さんが口を開く。

「負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くってのはどう?」

清奈は頬を上げて、相手を挑発するような微笑みを見せる。

「いいわね、分かったわ。その賭け、のってあげる。」

こりゃ両者かなりの本気モードだ。
清奈は、『負けたら相手の命令を一つ聞く』という、彼女にとって屈辱な罰になるかもしれない賭けを受け入れた。

清奈は誰かの命令に黙って従うような奴じゃない。まず最初に一考し、自分が納得しないかぎり従わない。そういうタイプだ。
3度回ってワンと鳴けとか死んでもやらないだろう。

それを受け入れることで自分自身に背水の陣を敷いたのだろうか。

もう、そんな分析はどうでもいい。

ただ、2人とも

目は……本気だ。

今刻より、

カップル対抗ドッジボール大会から

清奈VS瀬戸さんのガチンコドッジボール対決とイベント名を変更する。

頭の中で格闘技番組の主題歌を流しながら見てくれたまえ。





だんだんと緊張が高まる。クラスメート全員が、二人の戦いの行方をじっと見守る。先程の喧騒はどこへやら、辺りは静かになり、潮風の音だけが聞こえる。見ると普通の一般客までもが観戦している。そして僕と一平は、「外野」という名の特等席に座ることを許されたのだった。

「さあ…始めましょ。長峰さん…!」

「……。」







一陣の風が吹いたかと思うと、清奈の体が反れる。

その美しき体で全身をバネにし、白球に力を込める。その白球に清奈の全体重がかけられ、清奈の手から白球が離れたとき、

汚れなき無垢なる左手から神速のごとく白球が瀬戸さんに向かい駆け抜ける!

その爆発力は超新星か。


「くぅっ!!!」

その豪速球を、胸と腹の丁度間の辺りで、キャッチする!

ボールはまだエネルギーが有り余るのか、更に瀬戸さんの体ごと外野へと押しやる!

「まだまだぁっ!」

瀬戸さんが叫ぶ。
瀬戸さんの足が地面に擦れる音が聞こえ、砂煙が舞った。
ボールは…

落としていない…!
あのボールをキャッチしている…!!
瀬戸さん…神ですかあなたは。

「あ〜痛っ。手がこうバッチコーンってボールに当たったからヒリヒリするのなんのって…。」

瀬戸さんの手を見ると真っ赤だ。
ボールに異常な回転がかけられていたため、摩擦が手のひらにきたのだろう。

「さて…キャッチしたことだし…。」

清奈をじっと見る瀬戸さん。

「今度はこっちのばんよ!」

そういって瀬戸さんもボールを投げる。



瀬戸さんも負けていない。その球は火に包まれた情熱の赤弾。火の粉が飛び散る幻が今にも見えそうな程。

さらに瀬戸さんは

そんな弾丸を、清奈の膝元に目がけて投げたのだ。
ドッジボールの基本的な戦法である膝狙い。最も避けにくく、キャッチしにくいからだ。

だが、

清奈に対してはそんな基本など通用しない。清奈にとって、この常識は全くあてはまらない。

「……はっ!!」

あれ?
清奈が…逆さまに。

いやいや、違う。

清奈はなんと膝のボールを空中後ろ回りで避けたのだ!

なるほど、空中に飛び、なおかつボールの軌道から体を離すのに最も適した……って、清奈。神ですかあなたは。
黒い髪の毛がふわりと空中で流れ、余裕で片足着地する清奈。

これには観客も拍手がわいた。

さてボールはというと、遥か彼方に飛んでいったのを一平がダッシュで取りにいっている。あれはキャッチ無理だもんな。火傷するしな。(火に包まれた、というのはあくまで比喩だが)


「原田ーー!ダッシュで戻ってこーーい!!」

「言われんでもそうしとるやろうがーーっ。」

遥か遠くから一平の声が聞こえた。

約3分程試合が停止し、ようやく再開といった所だ。

一平が清奈にボールを投げるが、利き手と逆でなければならないので、清奈が右手1本でボールを処理、すぐに左手に持ちかえて瀬戸さん目がけて投げる!

2度もキャッチできないと判断したのか、瀬戸さんは持ち前の反射神経でうまく避けた…のはいいが。





「はあ……。」

今度は僕がこうやって、遥か遠くに飛んでいったボールを取りにいっているわけである。

飛んでいく前にキャッチすればいい?それ、無理。

もしかして2人が避けたら、特等席に座っている僕と一平は毎度ボールを拾いにいかなきゃならないのか?

なんか

永遠に終わらなくなってしまいそうな予感…。



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