〜第3章〜 清奈


[16]2007年5月19日 昼2時04分


さくらちゃんから聞いた話では、80mハードル走で、清奈との差は僅か0.1秒差だったらしい。

1回戦は順当勝ちといったところか。
次々と試合回数を重ね、いよいよベスト4が決まった。

清奈の指示と、僕の頑張り(清奈だけではないはずだっ!)のかいあり、僕達は決勝まで上がった。

相手は予想通り。

優勝候補の原田、瀬戸ペア

ここまで圧倒的な強さを見せつけている。まるで瀬戸さんの策略かと思える程の反則コンビだ。

「いよいよ決勝戦!相沢と長峰さんバーサス原田とあたしよ!」

両チーム、コートに入る。試合前に清奈が僕に言った。

「今までとは相手が違うわ。山なりのパスでなるべくボールを相手の好きにさせないことが重要。」

「山なりで、清奈が指示を出したら攻めるんだな。」

「基本的にはそれでいい。」

清奈も本気モードらしい。そのせいか、自然と精悍な顔になり、まるでこちらの気持ちも引き締まるような気すら感じる。

相手の配置は内野が一平で、外野が瀬戸さんだ。

じゃんけんで後攻に決まり、今試合開始の笛がなり響いた。



「相沢!そして長峰さん!!」

急に瀬戸さんが大声を出した。
「幾多もの戦いを勝ち抜き、決勝まで上がってきたことは褒めてあげるわ。でも!王者の栄冠を手にするのはあたし達よ!」

すると清奈が…言ったセリフは。

「面白い。この勝負、受けてたってあげる。」







「ほないくで瀬戸!」

一平が瀬戸さんにボールを転がした。

「先手必勝!」

瀬戸さんがキャッチしてすぐに僕に目がけてボールを投げつける!

ビュンッ!!

と風をきって飛んできたボールを避ける。

あ……あぶねぇ…。

本当に女子が投げたボールか?運動エネルギーの塊は凶器そのものの威力だ。
しかもそのボールを

見事に一平はキャッチし、僕にすぐさま投げ返してくる!

くそ!避けばっかりじゃ分が悪い。

「ほらほら相沢〜。避けるのもいいけどどこまで耐えられるのかなぁ?」

なおも猛攻は続く。

しかも単調な攻撃ばかりじゃない。

2人が常に動き回っているので、あらゆる方向から襲いかかってくる。

こうなったらいちかばちかだ!

思いきり投げつけた…いや、もはや叩き付けたと言える程のそのボールに

「うおおおおっ!!」

突っ込む!!
一瞬体の自由がきかなくなったと思うと、僕はおもいっきり吹っ飛ばされていた。
強烈なボールが僕の胸で暴れて、脱出しようとスピンがかかるが、僕の腕がボールをしっかり受け止めていた。

「さすがね。」

瀬戸さんの声が聞こえた。キャッチできた。
それにしても一平…こんなボールをキャッチし続けていたのか?ありえねえ。
たぶん、もういちどキャッチしろと言われても無理だろう。

「立ちなさい、悠!」
続いて清奈の声が聞こえた。
わかってる。
絶対勝ってやろうじゃないか!

僕は山なりにボールを投げる。


だが……!


潮風の悪戯か。
向かい風が吹き、ボールの軌道が狂う。これじゃあ清奈の元にボールが回らない…!
故に敵がボールを取ってしまい、再び猛攻が始まるのだ!
そしてあのボールをもういちどキャッチできる自信はない。

しまった…!!

と思ったときに

清奈が走って、線ギリギリから前に高くジャンプする!

「嘘やん!そんなのありか…!」

予定の半分も行かなかったボールを、空中でキャッチする清奈、そしてそのまま
一平に

雷が舞い落ちるようなボールの弾道を創り、叩き落とした!

ズバンッ!!

キャッチした音は
地に落ちた落雷の爆発音か。
そしてボールは、一平の腕から転がり落ちる。

「アウトよ。」

一平に向かって言った。
途端に歓声が起こる。

「か……かっこいい…!!」

誰かがそう言っていた。
投げられた一平も何が起こったか分かっていない。

「ちょっとー!長峰さん左利きだから左手封印しなさいよー!」

瀬戸さんが言うが、清奈がそんなことを聞くはずもない。

「次はお前だ。瀬戸梓。」
清奈が瀬戸さんに挑戦状を叩き付けた。

「分かったわ。受けてたとうじゃないの!」

思えば瀬戸さんも負けず嫌いだ。清奈と瀬戸さん、親睦を深める筈のドッジボールが、まさに真剣勝負になった瞬間だった。


相手の内野外野が入れ替わる。

「まずは。」

瀬戸さんはビシッと僕を指差す。

「相沢!あんたを潰すわ!」

そういって投げたボールは、

右に異常な回転をかけられたボール。

「この程度!」
僕はさっと横に一歩でるが、

「うわ!」

カーブした!
ドッジボールはそこそこ大きな物だ。それが軌道を曲げる程(潮風のせいでもある)の回転をさせているなんてーー!!

バンッと痛々しい音が響いて僕は僅か1回でアウトにされた。



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