〜第3章〜 清奈


[14]2007年 5月19日 昼1時21分


男ども…必死だな。

僅か数分で男は完全に清奈の言いなりに…。
僕は少しミスを侵した気がする。
清奈さあ…。
僕はな、出来ればクラスメート達の仲良くしてくれれば良かったんだよ。
それは、支配だろうが。




半分溜め息をつきながら、僕は一平に引っ張られるように清奈の輪の中に入っていった。



「……長峰さん。」
急に足立さんが清奈に話しかけた。

足立さんは、突然ボソッ…と話し始めることが多い。

「何?」

清奈は新たにジャムパンを頬張りながら聞き返した。

「さっきは…ありがとうございました。」

「ああ、あれのこと?別に礼はいらないわ。

「…髪の毛…きれいですね。」

「?」

清奈は自分の髪の毛を肩の前に流す。そして髪の毛をよく見る。

「…ありがと。」

自分の容姿をあまり気にしない(綺麗で可愛いのに)性格の清奈なので、急に髪の毛のことを言われ、少し意外そうな顔をして言った。

まあそういうわけで、僕はその円の中に加わり座る。そして先程パーキングエリアで買ったコンビニおにぎりとお茶を出そうとビニール袋に手を突っ込んでバッと取り出したのは

いちごオレ。



「あ?」
なんでこんなものが…
ああ…そうだっけ。買ったんだったっけ?

見ろ。あの清奈の顔を。
予想以上の嬉しい顔をしているじゃないか。目がちょっとキラキラしてる。
それを振り払うように首を横に振った後、

「お前…それまさか。」

かなり真剣な顔で僕に問う清奈。

「…欲しいのか?」

さて、どんな反応をするのか。
清奈は肯定も否定もしない。ただじっとそれを見つめている。
ピンク色の牛乳パックに、甘く、ほんのり酸っぱいイチゴがプリントされ、ご丁寧にストローまでついているそのいちごオレ。

「たまたま見つけたんだ。遠慮しないで受け取ってよ。」

だが、

「遠慮する。いらない。」

そういって拒否した。

「なんでだよ?」
僕がその理由を聞く。

「どうせ…何か変なことを考えているんでしょ。」





ば…!

馬鹿っ!そんなわけないだろうが!
他意なんか無い!
しかもクラスメートの方々、全員納得した顔をしているぞ…。
まあ確かに状況的に誤解されるかもしれないが、僕はいつまでもいちごオレを持ち続けたくないんだよ。コーラならまだしも、いちごオレだろ?男子の僕がいちごオレじゃ変だろ?
「そんなわけないだろ。だから…な?」

清奈は

「分かったわ。じゃあ遠慮なく頂くわね。」

早業でいちごオレをかすめとる。

「受け取ったからって、変な期待しないでよね。」

だ……だから!
期待とかじゃなくて、あくまで僕の好意で、別に清奈がどうこう…って何で僕がツンデレ口調になってるんだっ。

ん…なんだ?ふっくん。耳元に近づいて…

「ざ〜んね〜ん。」
小声で聞こえた。


だから、違うってーの!










さあ、いよいよ。

瀬戸さん主催、カップル対抗ドッジボールトーナメントが始まった。

広場の一部が砂地になっている。その部分に綺麗に描かれたコート。
予め書いてきたらしい模造紙を皆の前で開く。

バッ!と開くと

32人16チームのトーナメント表だ。

僕達の1回戦は第7試合だ。

「早速始めるわよ!」


というわけで第1試合が始まった。
僕達の番はまだしばらく先だろう。


「悠。」

「どうした?」

清奈はいつもの真剣な顔つきで僕に言う。

「…今気づいたたんだけど。」

《この公園に揺らぎが生じ始めている。》

その声は…フェルミ!

《ええ、私も感づいてきました。》
「パルスまで…!一体ここに、何のために?」

「そんなこと分からないわよ。でも…何だか妙ね。」

「なんで妙なんだよ?」

「だって、揺らぎが起こり始めたのは私達がここに着いてすぐのことだったのよ?まるで私達が来るのを待ってましたって言ってるみたいじゃない。明らかに奴らの罠よ。」

「じゃあ…放っとくのか?」

「馬鹿。放っといたらそれこそ奴らの思う壺よ。まだはっきりとは感じられないけど、揺らぎを確認しだい殲滅するわ。」

「…相手から仕掛けてくるのを待つっていうのか?それは危険だろう。」

「そりゃ先手を打ちたいわよ。でも無理。私達タイムトラベラーは揺らぎを確認しなければ、どの時間に飛べばいいのか分からないでしょう?」

そうか。
確かサーチングと呼ばれる計算を行い、ネブラのいる時間を特定しなければならなかった。清奈やタイムトーキーが言うことには、まだ揺らぎが小さくて特定はできないらしい。

「ハレンもいないし…僕達2人で何とかしないと行けないわけか…。」

「いいえ。」

清奈はきっぱりと言った。

「私1人で行動する。」

最初からそのつもりらしい。

「な…なんでだよ!清奈1人でなんて…。」

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