〜第3章〜 清奈


[13]2007年5月19日 昼12時10分


清奈は腕を組む。いまいち合点が行かない顔をして

「それじゃ作戦って言わない。」
と言った。

「え?」

「内野と外野のコートでの位置を考えてみなさい。内野は、相手の内野も外野からも常に目をつけられている。しかし、外野は相手の外野には動きを悟られにくいでしょう。だから基本的に内野よりも外野からの攻撃の方が相手の意表をつきやすいはず。」

「だから……?」

「決まってるじゃない。お前が内野で私が外野よ。お前が当てられたら私も内野に入らざるをえないけど、それはお前の運動神経次第ね。」

というわけで、僕が内野、清奈が外野になるそうだ。
「後は私とお前がいかにスピーディーにボールを回して相手を撹乱させるかが鍵よ。お前…私の投げるボール、もちろん受け止められるわよね。」

「……。あ……あぁ!大丈夫だ…問題ない。」

清奈は恐らくその気になれば、文字通り弾丸スピードで投げるだろう。それを受け止めろと言われた。いや、『受け止められるわよね』と言われてしまったら、イエスとしか答えようがないだろう。なんだか、半分脅迫のように感じられる。

清奈のおかげで、楽しく親睦を深める為のドッジボールが一変してしまった。
そのせいで、まさかあんなことになるとは思いもしなかった…。




ドッジボール大会の前にまずは昼ごはんを食べなければならない。

僕はふっくんと一平の仲良しトリオで昼食をとるつもりだったが

「なあ相沢。」

一平が僕に話しかける。

「今日はぜひぜひ、あの集団の中で食べへんか?」

一平が指を指したその先は二人の美少女が沢山の男子と女子に囲まれている。
さくらちゃんは小さな弁当箱に白い箸でのりたまごはんをつついている。一方の清奈はジャムパン(やはりイチゴ)をぱくついている。そして二人の周りには沢山のクラスメート達。その光景は、マリアとヴァルキュリアをたいそう丁重にもてなしている図に見えなくもない。

なるほど、バスの中でそこそこ仲良くなったので、さくらちゃんが清奈を昼食に誘うことで不可侵領域を形成したのち、『パーキングエリアでの一件で清奈と仲良くなれたから一緒に昼食を食べても良い』という免罪符を掲げた、ということだろう。

おい……

そこにいたのは女子は足立さんと、足立さんの友達や、クラスに数人はいるクラスの中でもちょっと浮いた奴。そして男子に至っては、全員がそこに集まっていた。
ちゃっかりふっくんはマリアとヴァルキュリアの間の席を陣取ってやがる。

「ねえねえ!僕の名前知ってる?」

男子が1人、清奈に話しかける。

「さあ?誰だったかしら?」

非常に失礼極まりない発言を返す清奈。
しかしその男子は、全く嫌な気は見せず、むしろ喜びながら

「俺は三河っていうんだ!宜しくな!」

「ふ〜ん、よろしく。」
適当に返事をする清奈。

「うわ〜!覚えてくれたよ〜〜!!清奈さんに名前を覚えてくれたよ〜!!」

「あ!僕は岡村ね!」
「俺は佐藤!野球部だから練習見にきて!」
「俺はふくは…うぉっ!」

ふっくんが、誰かにおもいっきりふっとばされ、遥か彼方に飛んだ。

僕は遠くから冷静にその光景を観察する。そして結論を下した。

男は…(僕を含め)…馬鹿な生き物だ、ということを。

そして男子は清奈だけでは無く、さくらちゃんにも沢山集まる。男どもも、女子も、さくらちゃんと清奈でちょうど半分半分に分かれている。

「ねえねえ空川さん!」

「あ…何ですか?尾島くん…。」

「空川さんってさ〜好きな人っているの?」


「………えっ。」

戸惑うさくらちゃん。

「え……えっ…と……。」
さくらちゃんは

「あ……あのぉ…そのぉ……。」

頬がピンク色に染まる。
これは、もしかして【脈あり】か?

「あ…えっと…気になってる…人なら……。」

そのセリフを聞き、男どもは歓声をあげた。

「誰?誰だれ?誰!?」
「空川さん教えて〜〜!」

「え…え〜っと…えっ…と……。」
さくらちゃんはますます顔を赤くして少しうつ向く。

すると

「あんた達、退きなさい!」

瀬戸さん率いる女子軍団がさくらちゃんの加勢に入る。そしてさくらちゃんに迫りくる男どもに蹴りを入れていく。

男軍…総崩れ。

「げぼっ!」
「おぶっ!」

瀬戸さんはさくらちゃんと手を繋いでその場を離れる。

「あ……あのぉ…ごめん…なさい…。」

さくらちゃんが、瀬戸さんに蹴られ(一番可哀想だったのは急所を)悶絶している男達を心配しながら、言葉を残し去っていった。


一方の清奈はと言うと、

「長峰さんって、いちご好きなの?」

「ん…。いちごが一番だけど、果物はぜんぶ好き。あ…なんか喉渇いたから飲み物買ってきて。」

「はい、ただいまー!!」

三人ぐらいが同時に駆け出す。

「俺が…!」
「買うんだー!」
「長峰さあん!」

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.