〜第3章〜 清奈


[12]2007年5月19日 昼11時00分


有山シーサイドパーク。

シーサイド、とだけあってすぐ側に海が見える。とはいえ有山は港町なので、泳ぐことは出来ない。

晴れ晴れとした5月の陽気に、海からの潮風のお陰で、暑くもなく寒くもない快適な環境だ。今僕たち1年5組は、かなり広い野原の上にいる。

「へっくしぇい!」

「どうしたふっくん。」

「あ゙ぁ…悠にぃ。俺…花粉症だってこと、じらねえのか?」

マスクまでしているのに鼻ムズムズでガラガラ声だ。大変だなあ…。

そういえば…大分前にそんなことを言っていた気がする。

「…まっだく…もうぢょっどまじなどごろを考えろよな…!」

ふっくん。
目薬をうったり、マスクをするのは花粉症患者なら自然の行為だ。しかしながら…そのせいでお前だけ浮いて見えるんだよなあ…。

ふっくん曰く、花粉が潮風に乗って来ているらしく、花粉症患者にとってここは拷問部屋らしい。

そんななか!

本日何度目かの瀬戸さんの声が響く。



「誠に勝手ながら、只今より!


【カップル対抗ドッジボールトーナメント大会】を行うわ!」

カップル対抗…ドッジボールトーナメント大会ぃ?

「ルールは簡単よ。
それぞれさっきのバスの座席の隣どうしがペアになってドッジボールをする!1人は内野で1人は外野に回って、内野が当てられたら内野と外野を交代。二人とも当てられたら負けよ。あと!男子のみ、女子に向かって投げるときは必ず利き手とは逆の手で投げること!一回でも利き手で投げたら失格だから気を付けなさい!あと優勝した人には大泉先生が何かおごってくれるらしいわよ。」



というわけで…

バスで隣の席…
隣ってどっちだ?右か?左か?

よく考えてみると、清奈のバスの席は端っこなわけで、僕以外と組みようがないことに気づいたとき、
なんだろう…
嬉しいような悲しいような…

現在11時を少し過ぎたところ。開始は昼食休憩をはさんだ後のことなので、やる気無しで木陰で色々話をしているやつや、真面目に商品目当てで体を動かしているやつ。まあ、清奈がこんな遊びに本気になるやつじゃなし、適当にやろうと思っていたとき、

「悠、来なさい。」

「え?あ……あぁ。」






急に清奈から呼びだされ、僕はこっそりと抜け出した。
後でいろいろ言われると面倒なのでなるべく目につかないように消えた。


「ふう。」
清奈がわざわざ僕を、更に誰もいないところに呼ぶということは、ネブラ関係か?

「何だ?」

「何って、決まってるじゃない。何かドジットボールっていう球技をするんでしょう?」

「ドッジボールだ。」

ドジッ子ボールと一瞬聞こえた自分に乾杯。

「まあどうでもいいわ。お前、分かっていると思うけど…私とペアを組む以上、負けなんか絶対に許さないから。そもそもタイムトラベラーが一般人に劣ってちゃ話にならないの。分かるわよね?」

そうきたか。
清奈は……負けず嫌いらしい。

「だから何だってんだ。そんなこと言わなくてもやる気だったさ。」

嘘だが。

「ならいいけど。じゃあ決まりね、ところで一つ聞きたいことがあるんだけど。」

「…何だ?」

「ルールは?」

「瀬戸さんが言ってたろう。男女二人一組になって…!」

「そんなことぐらい聞いているわよ!私は生まれて初めてドジッ…じゃなくてドッジボールをやるのよ?だからルールを教えてって言いたいの!」

全く鈍感なんだから、と言いたげに清奈の顔が呆れた表情になる。
「ごめんな。ドッジボールってのは、四角いコートの中で相手にボールを投げて当てればいい。コートの中に入るのは内野で、コートの外にいるのは外野だ。」
僕は地面に指でドッジボールのコートを書く。

「内野はこの部分内で動ける、外野はこの部分内だ。こんな感じで相手の内野の人にボールを当てる。」

「内野の防御手段は避けるかキャッチする…それだけね?」

「そうだ。あと他にもルールがある。ボールがワンバウンドしてしまったら相手に当たっても無効だ。あと首より上の部分にボールを当てても無効、危ないからな。そして、もし内野が当てられても、ボールが落ちる前に内野か外野がキャッチできたら無効になる。ルールはこれだけかな。」

「なるほどね。」

清奈の頬がつり上がる。

「面白そうじゃない。じゃあ…早速作戦会議ね。」

「作戦?そんなもの作るのか?」

「当然よ。策無しで勝利は掴めないの。まずは、どちらが内野で、どちらが外野に行くか…。」

僕の運動神経だが、人並みには動ける自信はある。
そして清奈の運動神経は、言わずもがな、男子でさえ比べ物にならない。
だから…。

「…清奈の方が運動神経が良いから、清奈が内野に行くか?」

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