〜第3章〜 清奈


[11]時刻不明 無刻空間…


そこは…暗いとも呼べる世界であり、明るいとも呼べない世界だ。
暗黒の空間に、あちこち紫炎が灯る。そこに赤い糸が幾万本も張り巡らせていた。
その糸の空間の中央に、
うずくまり
下を向き
ただ体は白く
冷凍保存されているように微塵も動かない。

そんな薄い存在…そんな男がいた。

《まだ……足りない。》

時が震えるかのような、弱々しい声が響いた。しかしその弱々しさの中に、確かな志を胸に秘めている。

《目覚められない…この程度では…あの子を眠らせられない。》


「恐るるにたりません。まだ時間は十分にあるのです。ゆっくり時間をかければいいことでしょう…シズキ様。」

その白く凍る男の側に立ったのは、

薄黒色のシルクの布を全身に纏った人間。
見えるのは顔だけだ。
それは男性なのか、女性なのかは分からない。
男性と呼ぶには肢体が細すぎる。女性と呼ぶには声が低い。

まず言えるのは、儚いということだった。


その人間が、右手からオレンジ色の光球を産み出す。
そして、その光球が水晶のように、映像が移った。
映ったのは…清奈だ。

「封印を解く3つの鍵、今の所発見したのは2つです。1人は…。」
《…あの子だね?》


「ええ、左様でございます。」

《ふ…ボクがここに封されて10年経ったのだ。さぞや美しく、雄々しい姿となっていよう。》

「シズキ様の察する通り、やはり鍵はトーキーではなく、体の中にあるようです。いずれは彼女を狩らねばならないでしょう。」

《…そのようだね。でも……まだ時期が早い。》

「シズキ様はそう思われますか。」

《甘い果実はね、しっかり熟してから食べないといけないだろう?余りにも熟しすぎるのも考え物だけど、収穫の時間にはまだ早いとは思わないかい?》

「…同感ですね。」

《ところで、もうひとつ鍵が見つかったんだって?》

「そうです。運の良いことに、もうひとつの鍵はすぐ近くにあったのです。」

《ほう…?》

「彼女も気づいていないでしょうし、無論もうひとつの鍵の所持者も全く気づいていないでしょう。」

《その子はどんな子なんだい?》

シルクの男が左手で右手の光球に手を沿える。すると光球に別の映像が映った。
悠である。

《…あの子のボーイフレンドなのかな。》

「さあ…そこまでは私も存じあげませんよ。」

シルクの男がクスクス笑う。
彼にとって恋は、重要ではなく娯楽らしい。まるで友人から興味の無い趣味の話をえんえん聞かされる時に浮かべてしまう微笑のようだ。

「驚いたことにですね、彼はタイムトラベラーになってまだ年月は浅いのです。しかしながら、この鍵を所持している。不思議だ…。」

《不思議ではないよ。》

「何故ですか?」

《この男の子の両親について調べたかい?》

「いいえ…申し訳ありません…。」

《きっと面白い事実があるんじゃないかな。多分…この男の子の両親は…ボクを封じたあの二人ではないかい?》

「ま……まさか!?」

《うん…間違いないと思うよ。あの2人の顔は10年たった今でもはっきり覚えている。……似ているでは無いか…。》

「なる……ほど。それならば鍵が眠っている理由になりますね。では、すぐに調べて参ります。」

《ボクを封じた2人が、結婚してその男の子の両親になったのなら、ボクは10年前と同じように…あの子とその男の子と戦うことになるかもね…。そして…もしボクがまた封じられたら…その子たちも結婚するのかなあ?》

「いや、どちらもまだ青二才ではないですか。今の二人はシズキ様の敵では無いでしょう。」
《だから、熟すまで待つんだよ。きっと2人ともボクと互角に戦うようになるさ。

その日が………楽しみだなあ。》

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