〜第1章〜 日常


[04]朝9時54分


僕、相沢悠と星影ハレンはいっしょに教室へと歩いていた。

「ところでハレン」
「何ですか?」
「さっき転がっていたあの丸いやつのことなんだけどさ」
「あ……はいっ!」
「あれは何なの? 大事な物なのか?」
「え……まぁ……」
「実はさ、今日僕が学校に登校する途中にさっきのあれと似ているものが落ちていたんだけど、もしかして君の?」
「っ!」

急にハレンが止まる。

「………」
「確か茶色くて、歪なパチンコ玉みたいで、ネックレスみたいに紐がついてて……」
「……」

あれ?
ハレンは答えない。何か驚愕しているような、何か戸惑っているような。いや、あれだけ感情の浮き沈みが激しかったハレンが途端に雰囲気が変わった。なんか気に障ること言ったっけ?

「おい……ハレン!」
「……はっ! 何ですか?」
「だからさ……」
「あ……多分それはわたしのじゃないと思いますよ」
再び花満開の笑顔を浮かべるハレン。

「そう……か」

今のは何だったんだろうか。あのネックレスはハレンと深い関係があるのかな。それともただ変な人だと思われただけか?なんなんだろう……。

僕はハレンを4組に連れていって、僕は5組に入った。
教卓にある座席表を見て自分の席に座る。僕は相沢だから出席番号がいつも1番だ。最初は出席番号順に席が並べられているから黒板に向かって一番左の列の一番前に座る。

すると、

「よぉ! 悠にぃ!」

聞きなれた声がした。

「よう、ふっくん」

僕に話しかけてきたこのムサい男は福原丈(ふくはらたける)だ。髪の毛ボサボサで、他人の目をこれっぽっちも気にしない奴だが、僕よりも成績がよくいつも自慢してくる。そういうところは正直ウザいが嫌な奴って訳ではない。
困ったときには色々助けてくれるし、あれはあれで友達思いだ。
そういうわけで僕は丈を「ふっくん」と呼んでいる。そのせいでこいつは「悠にぃ」と僕を呼ぶ。中等部からの友達だ。そしてもう一人友達がいる。今ソイツが教室に入ってきた。

「よっ! 二人とも元気そうやないか?」

関西弁を駆使するコイツは原田一平だ。
一平だけあってコイツの兄弟はかなり多い。たしか下に5人いたはずだ。それでコイツは6人兄弟の長男にあたるわけや。
あ……関西弁移ってもうた。

「ところでお前ら。さっきそこでええニュースを聞いてん!」

一平が切り出した。

「え……いったい何よ?」
「何とな……あの『空川さくら』がこのクラスに降臨なさるらしいで。」
「ぅおおおおおい!」

僕とふっくんが同時に歓声を上げた。
だって空川さくらっていえば、この学年で彼女の名前は知らないっていうぐらいの……美少女だ。
超可愛い。言っとくが、超ーー可愛い!
一平、ふっくん、そして僕も、非公式団体「空川さくら同盟」の一員だ。
容姿淡麗、成績優秀。否の打ちどころnothing at all!
女神さまキタコレ。男子に大人気は言うまでもなく、女子からもごく一部の嫉妬する連中を除けば皆から親しまれている。

「さくらちゃんがいるっていう時点で、この1年間は保障されたってもんやで! あははははは!」

共に笑う僕とふっくん。

「シーーッ! いらっしゃったってーの」

さくらちゃんが教室に入ってきた。

入るとすぐに女子達が集まって、「お久しぶり〜」みたいな感じの会話が始まった。

「みんなお久しぶり〜」

出た!
さくらちゃんの微笑み!
あれが僕の生きる活力になるのだぁ!
「今のうちに拝んでおこう。ありがたや〜ありがたや」
ふっくんが言った。

ああ、この先学校でどんなに嫌なことがあっても行くぞ。僕は学校に。
世間が日曜でも、夏休みでも、さくらちゃんが登校するのなら行くぞ!うはははは。

あの茶色みがかったショートヘアーの顔。顔には幼げが残っていて、僕のツボなタイプだ。さくらちゃんの笑顔は……
一度だけしかみたことがないが、その日もう死んでも悔いはないと思えた記憶が残っている。

ふっくんと一平とでそんな会話を交しながら、僕は体育館に行って高等部の入学式の校長の挨拶を適当に聞きながし、教室に戻る。時計を見ると9時54分だ。

新しいクラスを見回す。
今のところ、中等部と違うのは、さくらちゃんと同じクラスになったぐらい。ふっくんと一平は去年も同じクラスだったし、新しく見る人もいない。担任は変わるだろうが、まあ正直どうでもいい。

再び当たり前の日常が始まった訳だ。

数分後、新しい担任がやってきた。

年老いたジジババが来るかと思いきや、来たのは20代の若い女教師だった。

「はいっ! みんな席について〜!!」

大きな声で歌うように言ったその教師。いや、ぶっちゃけ歌っている。

数分後、全員が席につく。
「は〜い。私の〜名前は〜〜」

黒板に名を書く。

「大泉〜響子〜」

ていうかいつまで歌ってるんだ。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.