第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[05]第四一話



 ここは太平洋の公海上に浮かぶとある諸島。


 そのうちの一つの島で、大変な事が起きていた。




 どう見ても戦闘用の服には見えない服装をした集団が森の中に幾つか点在している。



 彼らは皆、青色と白色の、ツートンカラーのローブのような服装だ。



 さらに、手にしているのは、どこからどう見ても玩具にしか見えない杖。そして、なまじ剣とは思えないような両刃の剣。


「こちらクロエ隊。兒籠(じりょう)総大将、応答願います」

『兒籠だ。配置に着いたか?』

「はっ。出撃の御命令を」


 無線機に相当する物は何もないのに、クロエという男性は総大将なる人物と連絡を取り合っている。


『敵は野営しているが、警備は手薄だ。我らがカムイ、ヤヌセクタルクを守れ!』


 威厳のあるこの声が、戦いの火蓋を切った。


「かかれぇ!」


 クロエの掛け声と同時に、戦を告げる時の声が島中を覆った。




◇◆◇◆◇◆◇◆




 戦を告げる時の咆哮が轟いている時、彼らが進軍している先の遺跡の内部。



 そこの一画の巨大な空間に様々な電子機器が持ち込まれ、野戦司令部にしては立派なものが成り立っている。


 そして迷彩柄の服を着た屈強な連中や白衣を着た連中がいた。


「加治警備班長! 襲撃です!」

「なに!? 哨戒班はどうしてる!」


 加治と呼ばれた、いかつい男は驚きつつも状況報告を促した。


「現在、第一から第七までの哨戒班が交戦中。敵は魔導部隊との事です」


 通信班の一人が、沸き上がる興奮を抑えるように言った。



 加治が唸っている間にも、報告は押し寄せて来る。


「第二哨戒班が撤退を開始。負傷者多数。衛生班の要請が出ています」

「南部から敵が北進中です。数時間後に第八哨戒班と接触します」

「外郭部の前線が縮小中です。第一、第四、第七哨戒班が撤退を開始」


 加治は、よし、と言うと、


「全哨戒班は第三次防衛線まで撤退。第五野営地で治療しろ。中距離防衛システム起動。進軍する敵を迎撃だ」


 的確かつ素早く命じると、通信士達が一斉に動いた。


「了解」


 そんな彼らの作業を背後から見ていた白衣の女性がいた。


「加治君、哨戒連中はこれが初陣?」

「ああ。初戦でビビって士気が下がらなきゃいいんだがな」

 小声で尋ねられた疑問に、同じく小声で返す加治。



 白衣の女性は軽く溜め息をついた。




 古代遺物特殊部隊。



 通称、ARF、ないしはタスクフォースの最も過激な部署に新人を大量配置するのは間違っているのではないか。




 常日頃からそう思っていたが、やはり間違っている。



 女性はそう感じていた。



 防衛庁と科学省の合同捜査機関とはいえ、人事に問題がありすぎる。





 彼女がそう思っている事を踏まえてか、加治が敢えてこう言った。


「軟弱を鍛えるには前線が一番だ。今回みたいな事態は珍しいがな。普段は小競り合いだからな」

「あのねぇ」

「まあそう言うな、レイ。科学省のタスクフォースがしっかりついてる。自衛隊のARFだってしっかりやってるんだ。問題はない」


 加治はそう言うと、防弾ヘルメットを外した。

 その時、通信士の一人が加治に報告を上げる。


「加治班長、敵は航空戦力を投入し始めました」

「やはりそう来たか」


 加治はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、遺跡の奥に向かって声を上げた。


「セイラン!」


 すると、遺跡の奥から若い男が現れた。


 彼は迷彩柄の服でも白衣でもない、和服に近い陣羽織のようなものを着ていた。



 さらに腰には刀が差してある。


「ついに来ましたか」


 セイランは、糸目でできるその穏やかな顔を崩す事なく加治に歩み寄った。


「陸は防衛システムが抑えている。やつらの狙いはそれの無効化だ」

「ふむ。灸を据える行為にしてはかなり荒っぽいですが、行きましょうか」

「おうよ。レイ、副司令としてしっかり指揮しろよ」

「無茶はしないでね」


 レイと呼ばれた白衣の女性は、加治の装備の一つであるマントを手渡した。



 それを装着した加治は、セイランとともに外へ歩き始める。


「全班員に通達! 航空戦力の迎撃はタスクフォースが行う。総員、陸戦迎撃態勢に入れ!」

「了解!!」




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