第一章 始まりは突然に


[09]第九話



「貴様……! 覚醒していたのかっ!」
「は? 覚醒? 何の事だ?」

 コルディールの怒気と驚きの伴った指摘に、戸惑いを示す如月。
 そんな彼の態度が、コルディールの怒りをさらに買った。

「とぼけるな! くそっ。先に貴様から始末してくれる!」

 コルディールは、左手の掌を如月に向けるようにして左腕を伸ばした。
すると、黒い球状の物体が空中に六個現れた。

「くらえ! エクスプローシヴボム!」

 その黒い球状の物体は、全て如月に一直線に飛んで来た。

「おいおい! そりゃないだろ!」

 如月はそう叫びながら、引き金を引いた。
 マグナムから放たれる全ての弾丸は、やはり実弾ではない。それらと先の黒い球状の物体は全て衝突し、爆発した後に煙が発生する。
 如月はその隙に、怪我で動けないネルフェニビアのもとまで駆け出した。

「ネル、大丈夫か?」
「耀君……」

 ネルフェニビアは苦痛に顔を歪ませながら、如月の呼び掛けに答えた。
 如月が、安全な場所までネルフェニビアを連れて行こうとした時、

「動くなよ、小僧」

 弾幕が晴れ、目の前には杖の先を如月に向けたコルディールが空中に浮かんでいた。
 如月は、マグナムの銃口をコルディールに向ける。

「次に動いたら、その身体に風穴が開くぞ」
「そりゃけっこう。面白い冗談だな」
「フン。口だけは達者だな」

 如月とコルディールとの激しい睨み合いが続いた。
そして、膠着状態のまま数分が過ぎた。両者は緊迫していたが、先に動いたのは如月だった。

「くらえ!」

 マグナムを無差別に連射したのだ。
 いきなりの攻撃だったが、コルディールは余裕の雰囲気を醸しながら、

「効かぬ!」

 自身の周囲にバリアを展開した。
 マグナムから放たれたエネルギー弾のうち、コルディールに向けられた弾丸は全て弾き返された。

「ちっ。こうなるのがオチか!」

 如月は、そう言いながら廊下をあらんかぎりに疾走した。
 だが、いつものスピードが出ない。それにやけに足取りも重い、と如月は感じた。

「魔力の…使いすぎ、です……」

 ネルフェニビアが息を切らしながら如月に言った。
 如月は、それに返事をしなかった。いや、返事をしなかったのではない。返事ができなかったのだ。
 普段はあまり疲れを感じない走りでも、今の如月には、背中に重荷を載せて走っているような感覚だった。
 限界はすぐにきて、如月はネルフェニビアを抱え込んだまま廊下の床に膝を着いた。まだたったの10mしか走っていなかった。

「はあ……はあ……。父上の言った通りだな」

 如月は、膝に力を込めて立ち上がろうした。
 が、どうしても力が入らない。そうこうしているうちに、コルディールが如月たちの前に立ちはだかるようにして床に着地した。

「さあ、覚悟を決めろ。今すぐその武器を捨てて、軍門に下れ」
「耀君………」

 ネルフェニビアが、その瞳に不安を浮かべて如月を見た。
 如月は、思い切り床を左の拳で叩く。

「…が……もん…か」
「ん?」

 コルディールが怪訝な顔で如月を見る。
 如月は顔を上げ、コルディールを睨み付けた。

「誰が貴様らの軍門に下るかっ! 悪事を働く集団と馴れ合うつもりはない!」

 その場は、一瞬時間が止まったかのように静まり返った。

「………ならば、ここで死ね」

 コルディールの持つ杖が発光し始めた。

「優秀な個体だが、結局は人の子であったか。悪く思うなよ、少年」

 如月に杖が向けられ、ネルフェニビアは堅く目を瞑った。
 そして、杖から光が放たれたその時、

『汝、何のために戦う? 何のために生き、何のために戦う?』

 突如、周囲に謎の荘厳な雰囲気のある声が響いた。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.