第一章 始まりは突然に


[10]第十話



「な、何者だ! 貴様は、何者だ……!」

 突如、聞こえた声に顔色を変えて叫ぶコルディール。

『さあ、汝の答えは否か。我にその答えを示せ』

 尋常ならざる雰囲気がその場を包み込んだ。
 今まで戦闘を続けていた黒装束たちや慶喜は戦闘を止め、如月たちに注目している。
 その謎の声に対して、ゆっくりと返答がなされた。

「俺は…ネルフェニビアを、何人をも救うために戦う……! いかなる運命が、呪いが俺に降り懸かろうと、この世界を守るために、ネルを守るために俺は戦う!」

 如月は、身体に残っていた全ての力を使って返答していた。
 数秒の沈黙の後、

『汝の答えは示された。汝の思う道はこれにあり。さあ、これこそが導かれし者の歩む道なり』

 直後、如月の身体を包み込むように光が発生した。
 ネルフェニビアは、そのせいで堅く目を瞑っている。近くにいたコルディールや、遠くにいた慶喜たちでさえ腕などで目を覆って保護している。
 その状態が十数秒間続いた後、急速に輝きが失われていった。
 そして如月が姿を完全に露にした時、皆は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。
 如月の姿は、全く別人の姿と言っていいくらいに変化している。上下はブラックのスーツで、上から純白のコートを羽織っている。そして、左目の前には厚さの薄い緑色をしたアイスコープがついている。

「覚醒したか……」

 慶喜は、如月の姿を見て思わず呟いた。
 黒装束の一人が、慶喜の一言で我に帰ったかのように慌てて命じる。

「ターゲット〇二を確保しろ! ヤツを先に捕らえるんだ!」

 その一言に他の黒装束たちは、一斉に如月に飛び掛かった。
 如月は、ネルフェニビアを脇に置くと、ゆっくりと立ち上がった。そして、マグナムの銃口を黒装束たちに向ける。

「オクティックブラスター!」

 マグナムから魔力の塊であるエネルギー弾が8発分、連続して発射された。
 それらは狙いを違わず、寸分の狂いなく黒装束たちに命中する。
 この時、如月の目から見える光景は、普通ではなかった。全ての黒装束が、ライフルスコープの十字線でマーキングされているように見えるのだ。さらに、それぞれの黒装束たちとの相対距離まで小さくだが表示されていた。

「この……役立たずどもがっ! サーバントごときが奴を止められないとは何事だ!」

 リーダー格の黒装束は、撃たれた黒装束たちを怒鳴り散らした。だが、そこにコルディールは含まれていない。

「コルディール、ターゲット〇二を排除しろ! 覚醒した以上、利用価値はなくなった!」
「はっ! 親方様」

 コルディールは、杖を如月に向けた。
 杖の先に、エネルギーが集中する。

「ディレクションバスター!」
「ぬんっ!」

 コルディールの至近距離からの攻撃に対して、如月は左手でシールドを張ってそれを防ぐ。
 そして、左腕の上に右腕を乗せ、右手に持っているマグナムをコルディールに向けた。

「これで終わりだ。神の裁きを受けよ」

 如月から発せられる声は、重厚な雰囲気を伴うもので、如月自身の声ではなかった。
 マグナムの銃口にエネルギーが集中し始める。
 コルディールは、いつの間にか空中に退避している。

「エクスキューションブラスター!」

 高密度に蓄積された魔力が、コルディールめがけて発射された。

「チッ! バーストブロウ!」

 コルディールは、即射で如月と同程度の攻撃を繰り出した。
 空中でそれらはぶつかり合い、大きな爆発が発生する。煙がゆっくりと晴れてくると、コルディールとリーダー格の黒装束は姿をくらましていた。狙撃された黒装束たちも、もちろんいない。

「我が役目は終わったか……」

 如月はそう呟くと、ドサリと床に倒れた。


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