第一章 始まりは突然に


[08]第八話



「そ、そうしようって………。父さんあんなに反対してたじゃないか!」
「それはこの状況下でお前に魔法を見せるという案に対してだ。囮自体に反対はしていない」
「そういう事かよ……!」

 如月は苦々しく呟いた。
 彼は、この手の日本語の扱いに関して、父親に勝った事は一度もない。それだけ慶喜は、日本語に達者だった。
 ネルフェニビアは、すでに腹をくくっているようで、

「屋外で戦闘開始の五分後に逃げて下さい」

 意を決した表情で言った。

「いや、先に逃げるほうが安全だ。その後すぐに頼む」
「……分かりました」

 慶喜の提案に、ネルフェニビアは少し悩んだ後、同意した。
 安全面を考えると、先に逃げたほうが良いのだろう。
 慶喜は、椅子から立ち上がった。それに続いて、ネルフェニビアと如月が立ち上がる。

「一瞬たりとも油断はできないぞ。いいな」
「はい…!」
「ああ……」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガチャリ。
 ドアの開く音がした。そして男が二人、ドアの内側から姿を現す。
その二人は、特に変わった事をするわけでもなく、普通に階段へと廊下を歩いている。
その光景を空中から見ている者たちがいた。全員、黒装束で手には剣やら杖やらを持っている。
そのうちの一人、先頭にいる片刃剣を持った黒装束が、

「ターゲット〇二が動いた。コルディール、行け」
「はっ」

 渋みのある声で、コルディールという人物に命じた。
 恐らく、この男が隊長格なのだろう。コルディールと呼ばれた女は、数人の部下と思しき黒装束を引き連れて、廊下を歩く二人の男に接近した。
 その直後、男たちが走り出した。どうやら、こちらの存在に気付いていたらしい。
コルディールたちが、さらに加速して近付こうとしたその時、

「バラージュブレード!」

 刃の形をした複数のエネルギー弾が、突如横からコルディールたちに襲いかかった。

「囮かっ……!」

 コルディールは、内心で舌打ちをしながら防御用のバリアを展開した。
 それによって刃が弾き返される。
 直後、コルディールたちは一斉に散開した。

「お前たちはターゲット〇二を捕獲しろ。ターゲット〇一は私が捕獲する」
「はっ!」

 黒装束たちは、一斉に魔法を唱えた。

「父さん、どうするんだよ」
「任せろ。こんな事もあろうかと用意していた」

 息子の問いに対して、慶喜はニヤリとしながらコートの内側から何かを取り出した。

「な、なんだそれ……」

 それを見て、如月は言葉を失った。
 それは、どう見ても二丁の銃だった。一つは、コルト式回転弾倉のマグナムで、もう一つは、アサルトライフルだった。
 慶喜は、マグナムを如月に手渡す。

「お前はこいつを使え。ただし、無駄撃ちはするな。早死にするからな」
「は、早死にって……」

 父親から手渡されたマグナムを受け取る如月。
 慶喜は、アサルトライフルのセレクターを連射に変更した。そして、銃口を迫り来る黒装束に向ける。

「敵を撃退したら、下で会おう」

 自分の息子にそう言うと、慶喜は狙いを定めて引き金を引いた。
 直後、爆発音に似た音が立て続けに発生する。
如月は、その大音量から振り切るようにマグナムの銃口をネルフェニビアに近付こうとしているコルディールに向けた。

「ネルに手出しをするな!」
 射撃の経験は全くなかった如月だったが、この時彼の目には、はっきりとライフルスコープの十字線が見えていた。
 コルディールの少し手前に銃口を向けて引き金を引いた。直後、発砲音がしたが銃口から弾丸が出る事はなく、銃口の手前の空間から湧き出るように緑色の弾丸が放たれた。

「クッ……!」

 玄関の扉にもたれかかるネルフェニビアへと伸ばされていた手が引っ込められた。
 その手の張本人であるコルディールは、弾丸が飛んで来た方向、すなわち如月を睨んだ。


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