第一章 始まりは突然に


[16]第十六話



 それは一瞬の出来事だった。
 第六倉庫室の扉が爆発か何かで内側に吹き飛ばされた。 その直後、高密度に蓄積された魔力が弾け、壁だろうと人だろうと、所構わず衝突した。
 その暴れ回る凶弾が全て消滅した時、第六倉庫室から二人の少年少女が現れた。

「いててて………。なんで扉が内側に吹っ飛んだんだ?」
「たぶん合成時に、瞬間的ながら魔力の蓄積に反応してエネルギー収束が発生したんだと思います」
「………つまり、どういう事だ?」
『早い話が、蓄積された魔力によって、周囲のエネルギーがその魔力一点に集中したのだ。並の魔導師ですら収束は困難だというのに、お前はどこまで勘のいい人間だかさっぱりだな』

 今回ばかりは本当に呆れたと言わんばかりの口調に、如月はムッとして、段々腹が立ってきた。
 だが、ここで怒りを爆発させても大人気ないうえに、何よりも疲れるので、抗議の文句をできるだけ怒りを抑えて言う。

「ぐ………。言わせておけば、何という刺々しさだ」

 ここでネルフェニビアが、頭上にクエスチョンマークを浮かべて一言発言した。
 本当に余計な一言だった。

「そうでしょうか? 私には褒め言葉に聞こえたのですが」
「………………」
『………………』

 ネルフェニビアの発言に、思わず固まってしまう二人。
 いや、固まったのは如月だけだろう。アストラルは、常に固まっているようなものなのだから。
 そんなかんだで、アストラルは、さらに入り込んだ知恵を与えると同時に批判を与えるという機会を失った。さらに言えば、如月も、アストラルの批判に対する抗議の機会を失った。
 対するネルフェニビアは、無言でいる物体と呆然として無言でいる少年の、その反応に驚いている。

「え、えと、その………。何か悪い事をしましたでしょうか?」

 オロオロと尻尾を動かし、申し訳なさそうに耳がうなだれている。
 そんなネルフェニビアが可愛いなどと、ついつい思ってしまう如月だったが、とりあえず咳払いをした。

「ま、まあ、ネルは悪くはないから安心しろ」

 そう言いながらネルの両肩に両手を置いた。

「え? え? え?」

 あまりにも突然すぎて、何がなんだか分からず混乱するばかりのネルフェニビア。

「とりあえず、ありがとう」
「えと…は、はい……」
『【仲良き事は美しきかな】、か』

 アストラルは思わず呟いた。
 しかし、その呟きは如月達には届いていない。
 なぜなら、それは胸中で呟いたものであり、如月たちはすでに戦闘態勢に入って周囲に警戒していたからである。
 一行は、受付カウンターへと繋がる通路の端まで来ると、壁に背を預け、死角となる左右を確認した。
 安全だと判断して、さらに受付カウンターまで前進する如月たち。
 エントランスホールは、合成魔法による一斉掃討で様々な箇所が破損していた。さらに、攻撃による煙が生じていて視界がかなり悪い。

「こんなに強力だったか?」

 受付カウンターが、その原形をとどめていない事に驚く如月。

「ま、まあ、使用者の能力が上乗せされますから」

 ネルフェニビアは、多少狼狽して言った。
 この合成魔法の実質的な部分を担ったのは如月だった。ゆえに、この結果は如月の能力の度合いを示していると言っていい。
 となれば、この損壊状況から推定して、如月はかなり高い能力を持っている事が分かる。
 ネルフェニビアは、如月の持つその能力に驚いていたのだ。

「煙が晴れるまで、しばらくは静観だな」
「そう、ですね」

 たなびいていた煙が、段々薄きなっていき、ゆっくりと視界が晴れてきた。
 すると、新たな事実が判明する。

「いない…………?」
「確かにいませんね。まさか、転移魔法を使ったんじゃ………」
『我は特に感じていないが……』

 そして、視界が完全にクリアとなった時、その原因が分かった。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.