鋼の錬金術師《長編》


[03]太陽と月*A



にっこりと笑っているその顔に
微かな艶を感じた。


こいつ、俺に気があるな・・・


そんなことを考えながら

去っていく彼女の後ろ姿を
眺めていた。







「いつから、だったっけなぁ・・・」








あの人に付いていこうと
決めたのは。






あぁ、最初からだったっけ。






一人で苦笑いしていると、

戸を叩く音がした。



「・・・?」




誰だろうか。


外はもう赤く染まり始めていた。









「・・・どぞ」



また
煙草を吸いたくなってきたな。



一人だと口が寂しくて
仕方がないのだ。





がらりと病室の戸が開く。






カツカツと、
靴の音がする。





あれ、この足音・・・











聞き慣れた音に自分の耳を

疑いながらも、


期待に眼を見開き


顔をあげた。













「おや、何だねそのひどい顔は」











黒い、






しなやかな髪が









陽の光に反射して。





「私がせっかく見舞いに来てやったのに」




彼はそう言いながら
顔をしかめた。



「・・・」



「どうした、固まって」



それでも
反応を示さない俺を見て



あぁ、

と顔をほころばせる。







「もう逢えないとでも、
考えていたのか?ジャン」




もしも、







もしも神様とやらが


いたのなら、


俺はあんたを
一生恨んでやる。


こんなに愛しい相手が
目の前にいるのに

立ち上がって
抱きしめてやる事も、


できないんだ。



「たい、さ・・・」


「ん?」


にっこりと微笑んでいる彼が歪み、
視界がぼやけてきた。


「っ?!ちょ、な、なんでっ!」


「あれ、・・・っかしぃな・・」




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