歪みの国のアリス《短編》


[05]木蓮の花A



「まぁ、いいや・・・」


そういうと、康平はまたテレビに向かった。

どうやら野球の試合をみているようだ。


「そういえば」


亜莉子はチェシャ猫に向き直った。


「あっちにも四季はあるってホント?」


「シキって、季節のことだろう?・・・あるよ」


「へぇ・・・」


「君がそう望んだから」


チェシャ猫はにんまりと笑った。


「私が?」


亜莉子の問いに猫が薄く笑う。

窓の外をみながら、チェシャ猫が言葉を放つ。


「幼いアリスは現実をみたくなかった。だけど、不思議の国で君は現実を求めた」


「・・・」


亜莉子はちらりと自分の叔父を見たが、彼は野球に夢中らしく、微動だにしない。


「だから、少しでも近づけようと、君は今のような時期に、桜がみたいと願った。君はその桜を見上げてこういったんだ。パパとママにも見せてあげたい、って」


「そんなの、覚えてないや」


あははっと亜莉子は笑う。


「・・・。そして、夏には、暑い陽射しが欲しい、秋には、真っ赤な葉が、冬には真っ白な雪がみたいって。だけど・・・」


「?」


「君がいなくなってから、季節の変わりは曖昧になってしまったよ」


「そう、なの・・・」


亜莉子はシュンとしてしまう。


「桜の木はまだあるよ。ちょうど、あの木に似てる」


チェシャ猫は窓の外を指差した。


「あの木って・・・」


猫の指の先には、古い木造の鳥居があった。

もちろんそこにあるのは神社だ。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.