歪みの国のアリス《短編》


[04]木蓮の花@


「あー、もう4月になるね」


亜莉子は暖かい日差しが差し込む窓を眺めながら呟く。

「んあ?あぁ、そうだな。もうちょっとしたら桜も蕾を開くだろうな」

テレビを見ていた康平が亜莉子を振り返った。

「不思議の国にも、四季があるのかな・・・?」


ボソリと放たれた言葉はテレビに夢中な康平には聞こえなかったようだ。


「あるよ」


「お゙わっ!!?」


ふいに後ろから聞こえた低めの声に驚きの声をあげる康平とは対照的に亜莉子は笑顔を向ける。


「おはよ、チェシャ猫」


チェシャ猫はごろごろと喉を鳴らす。


「おはよう、アリス」


「き、急に出てくるなっていってるだろぉ?」


チェシャ猫の存在に康平は最初こそ自分の目を疑ったが、亜莉子の話を聞いて、頭を抱えながら彼の黙認していた。

いや、認めざるを得ない状況に追い込まれた、といった方が正しいかもしれない。

何を言っても彼は亜莉子から離れようとしなかったからだ。


「・・・」


康平の呼びかけに、チェシャ猫は無言だ。


「チェシャ猫!返事はしなきゃだめよ?わかったなら、うん!わからなかったらわからないってちゃんと伝えなきゃ」


小さな子供を叱るように、亜莉子は腰に手を当てて猫を見上げた。


「でも、アリス。僕は叔父さんの言う通りゆっくり出て来たよ?」


「え?」


「ほら、こうやって・・・」


そういった直後、チェシャ猫の体がスーっと消えていくではないか。


「っ?!」


何回見ても慣れない康平はびくっと体を反応させた。

半分まで消えたところでフッと元に戻る。


「ゆっくり、だっただろう?」


そーゆー、意味ですか・・・?


亜莉子と康平は呆れたように肩を落とした。








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