歪みの国のアリス《短編》


[06]木蓮の花B



そしてその神社に植えてある樹木は、桜ではない。

でも桜より、大切な思い出の詰まった・・・木。


「・・・白木蓮」


「シロモクレン?」


「あの木の種類よ。そっか、ちっちゃい頃の私って白木蓮が1番木のイメージ強かったのね」


ふふふと笑いながら亜莉子は猫の顎の下をかいてやった。


「チェシャ猫、散歩に行こうか」


亜莉子の突然の誘いに猫が首を傾げる。


「何処へだい?」


「ちょっとそこの神社まで」


チェシャ猫は頷き、いつもの台詞を口にした。


「僕らのアリス、君が望むなら」


亜莉子はにっこり笑って未だにテレビに釘付けになっている康平を振り返る。


「叔父さん、ちょっと出掛けて来るね」


「ん?あぁ・・・。気をつけてな」


「はーい」


亜莉子はチェシャ猫を引き連れ、部屋をでていった。

独り部屋に残った康平は中継を続けてるテレビにリモコンを向ける。

しばらく真っ暗になったテレビ画面を見つめ、盛大に息を吐く。



「・・・あいつ、もしかしてあの頃の事覚えてるのか?」



どうやら康平はテレビを見ている振りをしていたようだ。

彼の頭の中では色々な言葉が渦巻いていた。

亜莉子は、思い出したのだろうか。

自分が人生最大の過ちを犯したあの頃を。

まさか、それで俺と一緒に居たくないから散歩にいったのか?!

康平はろくなことを考えない自らに嫌気がさす。

今になって亜莉子が一つも嘘を言っていない事が明らかになってゆく。


それはやっぱり俺が全て悪いと亜莉子が暗に示しているのだろうか。


康平は基本的に亜莉子の事になるとネガティブになるようだ。




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