機動戦艦雪風


[08]スラバヤ沖海戦 中編


「進路障害無し。屠龍、小牧いろは、かるた、出撃する。」
小牧姉妹の駆る二式複戦が雪風のカタパルトから飛び立つ。二式複戦は高高度に達すると、月明かりに照らされながら闇夜を駆ける。
小牧姉妹専用機にはいろはの要望で高性能な全方位索敵システムが搭載されている。そしてもう一つ、試験的に搭載された機能があった。


一方、後退したABDA艦隊は南下し、ジャワ島沿岸に向かっていた。沿岸部を航行することにより日本軍の目をくらまし、陸軍上陸船団に直接攻撃することを企図していた。
しかしその動向の一部始終は、神通の放った一〇〇式司令部偵察機により日本軍に筒抜けであった。
「うざったい索敵機だ。どうにかできんのか?」
ドールマンは八つ当たり気味に管制官に言い放つ。管制官が難色を示すと、ドールマンはふん、と鼻息を鳴らした。
しかしなにか妙案を思いついたのか、その表情は一変、不適な笑みを浮かべる。

その間に神通の一〇〇偵が燃料切れにより後退。代わって那珂搭載の一〇〇偵がその任を引き継いだ。
それを待っていたと言わんばかりに、ドールマンは残存燃料の少ないアメリカ駆逐艦4隻を艦隊から転進、離脱させる。この陽動作戦により一〇〇偵はABDA艦隊を見失ってしまった。
「我レ、敵艦隊ヲ喪失ス。」
その一報に日本軍は自力での索敵を余儀なくされる。しかし高木は意に介した様子もなく、艦隊を三つに分け、南下を指示した。
そして一〇〇偵の目をくらましたドールマンは反転を指示。北上し上陸船団の壊滅を目指す。
だが突然、艦隊最後尾を航行していたイギリス駆逐艦「ジュピター」が大爆発を起こし炎上する。
「何事だ!?」
ドールマンが叫ぶ。そこにジュピターから通信が入る。
「我、雷撃を受く!」
「雷撃だと!?潜水艦か!?」
「付近に敵影無し!」
「なんだと!?」
突然の、謎の爆発に慌てるクルー達。しかし次の瞬間、デ・ロイヤルのレーダーが一つの影を捉えた。
「12時、距離48,000、戦闘機!?そんな、さっきまで居なかったのに…」
ドールマンは管制官の一人から双眼鏡を奪い、レーダーの指し示す先を見遣る。
「や…奴が撃ったのか…?この距離から…?」
そこには人型で空中に浮遊する、電磁加速式長距離狙撃砲を構えた赤い二式複戦の姿があった。
「コロイド溶解。対有視界電探索敵迷彩、喪失。」

―対有視界電探索敵迷彩。
機体表面に特殊な形状(正三角錐)の粒子からなるコロイド流体を展開し、そのまま凍結させることにより、可視光線、電波をプリズム分光させ視界、レーダーから身を隠す機能である―

いろははキーボードを叩き、実験結果を打ち込む。
「新装備の実戦試験終了。モニターされたし。」
「神通、了解。貴官は作戦通り帰艦されたし。」
「了解。これより帰投する。」
二式複戦は戦闘機型に変形し、反転離脱する。これにドールマンは顔を怒りで紅潮させ、残存艦隊に進撃命令を下す。

デ・ロイヤル、ジャワにアメリカ重巡「ヒューストン」、オーストラリア軽巡「パース」が続く。デ・ロイヤルは主砲を撃ちながら二式複戦を追う。
二式複戦はきりもみしながら回避運動を続ける。しかし飛行速度はそれほど速くはない。
だがドールマンは怒りに我を忘れ、小牧姉妹の真意に気付かないでいた。―そして、気付いたときにはもう手遅れだった。
ABDA艦隊は両舷を那智、羽黒に挟まれ、絶体絶命の窮地に追い込まれていた。那智、羽黒は砲撃しつつABDA艦隊に接近する。
そして前方には、神通以下二水戦の姿があった。
「バカモノ!何故気付かんだ!!」
ドールマンが叱責する。だがクルー達は顔を見合わせ、だれ一人、ドールマンを見ようとはしなかった。
「ええい!両舷砲門開け!」
「この戦力差では無理です!後退しましょう!」
クルーの一人が進言する。するとドールマンは耳まで真っ赤にして、
「ふざけるな!これ以上醜態を晒してみせろ…後世の笑い種だ!」
ドールマンの尋常ではない怒りに、クルーはたじろぎ、またも顔を見合わせる。だが何もせず沈むわけにはいかず、クルーは各々の持ち場へ戻る。
「両舷、魚雷装填!目標、敵艦影!」
デ・ロイヤルの両舷砲門に魚雷が装填される。そしてドールマンの檄で、那智、羽黒に向けて放たれる。
「回避運動!続けて敵艦と同航戦開始!」
互いに距離15,000メートルから雷撃を開始する。
「魚雷装填!同時に主砲回頭!てぇ!!」
「両舷より魚雷!」

ガンっ!

ドールマンがコンソールを叩く音が響く。
「撃ち返せ!両舷デコイ発射!!」
デ・ロイヤルの両舷からデコイが放たれる。デコイは右舷6,000、左舷7,000メートルの場所で那智、羽黒のはなった魚雷に命中し、高い水柱を上げる。
「主砲回頭!照準、両舷敵艦影!魚雷装填!」
すかさずドールマンが声を張る。
その間に那智、羽黒とデ・ロイヤルとの距離は8,000メートルまで縮まっていた。
「無謀だな。退けばよいものを。回避運動、取り舵!」
那智艦長、清田孝彦大佐が叫ぶ。
「羽黒に通電。同士討ちを防ぐため距離を維持しつつ砲戦に移行!主砲照準!てぇっ!」
那智の放った砲弾がデ・ロイヤルの前方甲板に着弾する。後続するジャワ、ヒューストンは神通、雪風の応戦に手一杯で、デ・ロイヤルは孤立を極めていく。
そして羽黒の主砲がデ・ロイヤルを捉え、機関部に命中。黒煙を上げる。
「機関部損傷、速力低下!」
デ・ロイヤルの管制官が声を上げる。
「戦況はこちらが不利です、撤退しましょう!」
ドールマンは顔を真っ赤にしながら、進言した管制官に平手を挙げた。そしてインカムを奪い取ると、
「後続艦、振り切って援護しろ!」
「こちらも…一杯…戦…離脱する…」
真っ赤な顔を更に紅潮させ、インカムを床に叩きつける。その間にも那智、羽黒の砲撃を受けたデ・ロイヤルはますます失速していく。
機関が停止するのも時間の問題であった。すると管制官が腫れた頬を押さえながら、扉を開け放ち走り去っていった。
それにつられるように、クルーがひとりふたりと持ち場を放棄してブリッジから逃げ出していく。
「貴様ら!っぐおっ!」
一際大きな衝撃がデ・ロイヤルを揺らす。振り返ると、機関部が黒煙を上げていた。
「こ…こんなサルどもに二度も…この私が…」
次の瞬間、デ・ロイヤルは閃光を瞬かせ、轟音とともに散っていった。

「敵旗艦撃沈!」
神通の管制官が叫ぶ。それを聞いた高木は大きく頷き、
「全艦に通達。これより掃討戦を開始する。草壁少佐、先陣を任せる。大本営が預けた力、見せてもらおう。」
由紀は力強く頷く。
「面舵、機関全開。人雷部隊、出撃!」

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