機動戦艦雪風


[03]バリクパパンの鷹


イギリスが誇る最新鋭艦、プリンス・オブ・ウェールズを主軸とするZ部隊を撃破したことにより、東南アジア海域においては最早敵無しであった。制海権をほぼ掌握した日本軍は、当初の目的である資源地帯占領作戦を推し進めた。

1942年1月22日。
バリクパパン油田地帯占領のため、軽巡「那珂」を旗艦に駆逐艦9、掃海艇4、哨戒艇3からなる第一護衛艦隊を派遣し、陸兵と戦略物資を乗せた14隻の船団の護衛にあたらせた。そして上陸部隊を乗せた輸送船2隻と駆逐艦2隻をバリクパパン付近の泊地へ侵入させた。
だが連合国軍はそれを事前に察知し、アメリカ軍籍の軽巡「ボイス」、「マーブルヘッド」を主力に駆逐艦4隻、計6隻からなる艦隊をバリクパパンへ急行させた。しかし―
「ボイスが座礁、マーブルヘッドが機関故障…」
駆逐艦隊指揮官、ポール・H・タルボット中佐は頭を抱えていた。なにしろ主力の軽巡を2隻も、それも戦闘前に失ったのだ。艦隊の士気は大きく低下していた。
しばらく口を噤んでいたタルボットはパイプを吹かし大きく煙を吐き出すと、立ち上がって言った。
「構わん。進撃だ。黄色いサル共に、我が59駆逐隊の底力を見せてやれ!」

翌23日未明、日本軍の上陸作戦は順調に進展し、上陸部隊はバリクパパン占領に成功した。上陸した陸兵達は歓喜の声をあげ、すっかり戦勝モードだった。
だがその時、バリクパパン湾内から爆音が轟き、爆発と共に黒煙が立ち上った。
「何事だ!?」
第一護衛艦隊指揮官、西村祥治少将が声を荒げる。
「敵艦からの発砲です!敵艦―4確認!」
管制官が応える。
「艦隊転進!主砲用意、照準、敵艦影!」
西村少将の駆る那珂が湾内で転進する。だがそこに、頭上から小型の爆弾が投下された。
目を遣るとそこには、オランダ軍籍の航空機三機が巡回していた。投下された爆弾は日本軍の輸送船「須磨浦丸」に直撃し、須磨浦丸は沈没。湾内に黒煙が蔓延し、那珂はタルボット艦隊を見失う。
その間にも日本軍は航空機とタルボット艦隊の集中砲火を浴びる。
「弾道から敵機の位置を割り出せ!機銃座は上空の航空機を近付けさせるな!」
那珂は弾幕を張る。だがその弾幕を掻い潜り、一発の対艦爆弾が投下された。爆弾は機銃座の死角、艦橋の真上を捉えていた。
艦橋の誰もが死を覚悟した。だが爆弾は、艦橋ぎりぎりのところで爆発する。
「…」
爆弾を撃ち落したのは一機の人雷、赤一色に塗られた派手な二式複座戦闘機だった。赤い二式複戦は脇に大型の電磁加速式長距離狙撃砲を抱えていた。
そしてガコンと撃鉄を引くと、射撃体勢にはいる。目標はオランダ軍籍の航空機。
「北西の風、微弱。目標12時15分、距離、276m。」
前席の人物(その声から幼い少女であろうことが窺えた)は無機質に、淡々と目標の座標を読み上げる。
「…」
後席の人物(背格好からこちらも幼い少女と思われる)は何も答えず、黙ってレバーを傾ける。
そして照準が敵機を捕らえたその一瞬、後席の少女は引き金を引く。放たれた弾丸は正確に航空機のエンジンを貫き、航空機は爆発する。
「一機、撃墜。次、1時20分、距離、203m。」
「…」
そして更に撃鉄を引くと、二機目、三機目と、正確に、無慈悲に撃ち落す。するとその前席のパイロットから、那珂に通信が入る。
「上空の敵は一掃した。貴艦は敵艦撃破に専念されたし。」
赤い二式複戦を確認した管制官の一人が口を開いた。
「赤い二式複戦…小牧姉妹…?」
小牧、と呼ばれた少女達は答えない。だが西村はそんなことは気にせず、通信機を口に当てる。
「援護に感謝する。貴官は引き続き上空の警戒にあたられたし。」
そして西村はいっそう大きな声で、管制官達を鼓舞する。

だが時は既に遅かった。
湾内に陣取っていた艦船のほとんどはタルボット艦隊の集中砲火により大破しており、辛うじて攻撃を免れた駆逐艦も既にタルボット艦隊を見失っていた。
ひとしきり砲弾を撃ち終えたタルボット艦隊は、意気揚々とバリクパパンを後にした。
結果、日本軍は初期目的は果たしたが、輸送船、哨戒艇の多くを失った。事実上、これが初の敗戦となった。

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