機動戦艦雪風


[04]パレンバンの悪魔


スマトラ島パレンバン。
17世紀初頭からオランダの植民地となっていた同地は、良質な石油が産出されることから、南下を進める日本軍にとって重要攻略目標であった。しかしその地形上、海、河川からの進軍は敵軍に早急に察知され、最悪製油所が破壊処分される恐れがあった。
そこで日本軍はソ連軍、ドイツ軍の落下傘部隊を参考に編成した「挺身部隊」の投入を決定した。
そして1942年2月14日、第一挺身団339人を乗せた第一二輸送飛行中隊20機と一機の人雷が、マレー半島カハン飛行場を飛び立った。そして11時30分、パレンバン市街上空に達した。

日本軍の奇襲をうけた蘭英連合軍は右往左往しながらも、対空戦を展開する。しかしそこに一機の人雷、一式戦闘機「隼」が舞い降りる。
「姫百合遥中尉、聞こえるか?」
隼のコクピットに陸軍第六四戦隊(通称、加藤隼戦闘隊)隊長、加藤健夫中佐から通信が入る。遥と呼ばれた女性は答えない。その対応に加藤はかまわず続ける。
「わかっているな?貴様の任務は挺身部隊の援護だ。建造物に対する破壊は許されんぞ?」
「解っている。早く起爆装置を解除しろ。」
その不躾な口調に加藤は片眉を吊り上げる。だが溜息をひとつ吐くと諦めたような表情を浮かべ、管制官に顎で指示を出す。
管制官がキーボードで「何か」を打ち込むと、遥の首のチョーカーの赤い光が消える。遥はそれを確認すると、操縦桿を前に押し込む。
それに呼応し、隼が地を駆ける。そして隼に砲火が集中したのを確認すると、輸送機から次々と挺身部隊員が降下を始める。

挺身部隊に砲撃が向くと、遥はすばやく転進し、砲撃を遮る。そして横目で味方の姿を窺うと、足元の連合軍兵に視線を落とす。
そして胸部に収められた対人機銃を向ける。そして恐怖に慄き銃を乱射する連合軍兵の姿を確認すると、操縦桿の引き金を引く。
そして再び地を駆けると、連合軍兵に機銃を放ち、また地を駆ける。
「市街地の敵兵は殲滅した。これより敵飛行場を襲撃する。」
遥は淡々とそう告げると、隼を戦闘機型に変形させ、空気を切り裂き飛び立つ。
「待て、姫百合!貴様の任務は―」
遥は通信を切る。

飛行場にけたたましいサイレンが響く。そしてオランダ軍の航空機が一機、また一機と発進していく。
遥は隼を人型に変形させると、両腕の機銃をオランダ軍機に撃ち込む。オランダ軍機は蜂の巣のように風穴を開けられ、空中で爆散する。
二機の先行機を墜とした遥は飛行場の先端に降り立ち、翼に懸架していた対艦刀を抜く。そして急加速すると、対艦刀を水平に構える。
オランダ軍機の脇を高速ですれ違う。後には上下真っ二つにされた航空機が小さく宙に舞い、轟音をあげて爆発する。
遥は発進待ちしていたオランダ軍機をすべてなぎ払うと、対艦刀を地面に突き立てる。轟々とたぎる炎を背に仁王立ちする姿は、さながら悪魔のようであった―。

一昼夜続いた戦闘の末、日本軍はパレンバン市街、飛行場、製油所を占領し、作戦を完遂した。これにより、内地への石油輸送の道が確立された。
―だが、後に米潜水艦の攻撃により日本商船団は壊滅し、内地への送油が絶たれ、石油不足を解消することはできなかった。

占領した飛行場の復旧に追われる中、遥は加藤に呼び出されていた。遥のチョーカーは赤い光を点し、その両腕は三重の手錠で拘束され、両脇には短機関銃を肩に架けた憲兵が付いていた。
「なぜ私の命令を無視した?」
遥は答えない。それどころか、話を聞く気はないといった表情で加藤を睨みつけていた。
その様子に狼狽したのか呆れたのか、加藤は視線を遥から外し、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「辞令だ。貴様の所属は第一三独立機動部隊に異動になる。直ぐに隼とともに佐世保まで出向しろ。」
遥は無造作に辞令を引っ手繰る。そして数秒辞令に目を向けると、何も言わずに部屋を後にする。
残された加藤は背もたれに体重を預けると、毒づくようにつぶやく。
「ふっ…上官殺しが。」

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