暴走堕天使エンジェルキャリアー


[04]seaside battle 前編


もちろん、地域住民やマスコミ各社には箝口令が敷かれていた。
だが人の口に戸は立てられない。まさしくその通りだった。

突如現れ、東京の一角を廃墟と化した巨大敵性体の噂は、瞬く間に日本全土に広がった。
或いは某国の軍事兵器、或いは地球外生命体など、噂の尾鰭は琉金のような広がりをみせる。
そして、その巨大敵性体を殲滅した巨大人型兵器の噂も、同じように広がっていった。

その巨大敵性体「BEAST」と、それを排除する為の巨大人型兵器「エンジェルキャリアー」。
エンジェルキャリアーを有する自衛軍特務隊は、首相直轄の独立部隊とは云え自衛軍の一部隊に変わりはなく、隊員達は日夜訓練プログラムをこなしていた。
その隊員達の中に、九十九の姿があった。肉体労働の経験が無い九十九にとって、訓練はかなり過酷なものだった。
更に九十九には他の隊員とは別に、エンジェルキャリアーのパイロットとしての訓練も課せられていた。

トレーニングモードで起動されたエンジェルキャリアーのコクピットに、正式パイロットスーツを着用した九十九の姿があった。
そのコクピットに小笠原の声が響く。
「前回の戦闘から得たデータを元にシミュレーション戦闘訓練を行う。準備はいいか?煤原三尉。」
「OKです。」
「では始めるぞ。」
コクピットのモニターに先日のBEASTの姿が映される。
考え得る状況を反映し、戦闘訓練が続く。
「街を破壊するな!足下には地下鉄が走っているんだぞ!」
小笠原の叱咤が飛ぶ。
「んな事言ったって…!?」
コクピットが激しく揺れる。そしてモニターが真っ赤に光り、中央に「failure」の文字が浮かぶ。
「何をやっている、三尉!」
管制室のモニターには、ビルを押し崩し倒れているエンジェルキャリアーの姿が映されていた。
「くそっ!」
九十九は唇を咬む。
訓練は地下輸送幹線からの出撃から再開された。
「くっそおぉぉ!」
果敢にBEASTに攻撃を仕掛けるエンジェルキャリアーが管制室のモニターに映される。突然、隣の小さなモニターに「advance warning」の文字が浮かぶ。
管制官の一人が言う。
「レーダーに敵性反応!東京湾沖200キロです!」
小笠原は直ぐに九十九に通信する。
「三尉、訓練中止。出撃だ!トレーニングモードを終了し通常モードで再起動。第三輸送台へ向かえ!」
「くそっ!ちったぁ休ませろっての!」
「文句を言うな。死ぬぞ。」
エンジェルキャリアーを載せた輸送列車が発車する。小笠原の乗った管制車も後に続いた。


管制官が算出したBEASTの予想上陸地点地下にエンジェルキャリアーが到着した。現場には既に自衛軍の陸戦部隊が到着していた。
管制車から海中にソナーが射出される。
「ソナー探知しました。画像、出します。」
管制車のモニターに映された画像には、巨大な長い物体が写っていた。その画像はエンジェルキャリアーのコクピットにも転送される。
画像を見た九十九は思わず呟く。
「なんだこれ…魚か?」
画像からは四肢の類は見受けられない。
「海ん中で戦えってんですか?」
誰にとも無く九十九が言った。それに小笠原が応える。
「エンジェルキャリアーは汎用型だが…極力浅瀬で戦ってくれ。」
エンジェルキャリアーを浅瀬へと動かす。
「…気楽に言いやがって…」
九十九は小笠原に聞こえないように呟く。
「来るぞ。気を引き締めろ!」

突然、海中から影が飛び出してきた。それは口を大きく開き、エンジェルキャリアーに突進する。
エンジェルキャリアーは上体を捻り、敵の初撃をかわす。九十九は横目で敵の姿を確認する。
「やっぱ魚かよ…!」
捻った上体の反動を利用し、BEASTの尾鰭(に見える部分)に蹴りを入れる。だが水面に遮られ、飛沫が高く舞う。
「当たらねぇ…足場が悪いんだよっ!」
BEASTは旋回し、エンジェルキャリアーの後方から突進してくる。
「三尉、避けろ!」
エンジェルキャリアーはとっさに横に飛ぶ。そこに軍の戦闘ヘリが突っ込み、BEASTの頭上に魚雷を放つ。

ドン。

鈍い音と飛沫を上げて、魚雷が爆発する。BEASTは一瞬怯むも、今度はヘリをめがけ口を開き突っ込む。
「バカっ、逃げろっ!」
水中から高く跳ねたBEASTの口に、ヘリは無惨に飲み込まれた。
着水の瞬間に、エンジェルキャリアーが手刀を入れる。
「どうだっ!?」
手応えはあった。だがBEASTは怯まない。そして尾鰭でエンジェルキャリアーを打ち倒す。
「うわっ!」
「三尉っ!」
高い飛沫を上げてエンジェルキャリアーは海中に倒れる。
「対水魚雷発射!敵を三尉に近付けるな!」
水際に待機していた陸戦車から、魚雷が射出される。

ドン。ドン。

エンジェルキャリアーとBEASTとの間で爆発が起こる。BEASTが離れた隙に、エンジェルキャリアーが立ち上がる。
「くそっ、埒があがらねぇ!敵はどこいった!?」

ドン。ドン。

援護の魚雷を回避しながらBEASTはエンジェルキャリアーの死角から突進してくる。
「三尉、左だっ!」
BEASTはエンジェルキャリアーの足下で急旋回し、長く伸ばした尾鰭を左足に絡める。
「なっ!?」
エンジェルキャリアーは足を引っ張られ、海中に引き込まれる。
「三尉っ!!戦車隊、援護出来んか!?」
「無理です!味方に当たります!」
小笠原は唇を咬む。

エンジェルキャリアーは為す術無く、海中深くへと引き込まれていった。


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