暴走堕天使エンジェルキャリアー


[05]seaside battle 後編


「こん畜生!放せっ!」
九十九はレバーを荒く前後に動かし離脱を試みる。が、一向に放れる様子は無い。
その間にも、エンジェルキャリアーはどんどん深みへ引き込まれる。
「エンジェルキャリアー、深度150まで引き込まれました!」
「ヘリを前に出せ!エンジェルキャリアー、戻れんか!?」
小笠原がモニター越しに言う。
「やってるけど…くそっ!!」

ドン、ドン!

ヘリから対水魚雷が撃ち込まれる。BEASTは身体をうねらせそれを避ける。
「殺す気か!二尉!」
「BEASTに喰われた方がマシか!?」
「んなわけ無ぇだろっ!うわっ!?」
BEASTは身体を大きく捻り、尾鰭を海中の廃屋に叩きつける。

ドォン!

鈍い音を立て廃屋が崩れ落ちる。
「煤原三尉!大丈夫か!?」
「痛ってぇ…けど、放れた!」
九十九は目一杯レバーを前に倒す。だが、エンジェルキャリアーは前のめりになるばかりだった。
「何だよ、おい!?」
エンジェルキャリアーの左足に、廃屋の鉄筋が絡み付いていた。
「BEAST転進!エンジェルキャリアーに突進します!」
コクピットと管制車に男の声が響く。そこに、九十九の声が割り込む。
「二尉!俺の合図で魚雷をキャリアーの頭めがけて撃ち込んでくれ!」
「どうする気だ!?」
「説明は後だ!」
「BEAST、接触します!」
大きく口を開けてBEASTはエンジェルキャリアーに喰いつく。だが、エンジェルキャリアーは両手と右足でBEASTの顎を支え、攻撃を免れる。
「今だ、二尉っ!」
「魚雷一斉射!当たるなよ、三尉!」
エンジェルキャリアーの頭部をめがけ、魚雷が発車される。
「そんなに喰いたきゃ…何発でもくれてやる!」
魚雷がエンジェルキャリアーの頭に着弾する寸での所で、エンジェルキャリアーは手足を離す。

ドン。

九十九の目論見どおり、BEASTは数発の魚雷を頬張り、爆発する。
「やったか!?」
「くっ!」
爆発の余波でエンジェルキャリアーは廃屋に打ち付けられる。怪我の功名と云うのだろうか。運良く左足に絡んでいた鉄筋が外れ、エンジェルキャリアーはゆっくりと沈んでいく。
しかしコクピットにはアラートが響く。そして、BEASTの姿をロックした。
「マジかよ…?」
下顎を失ってなお、BEASTは戦意を失ってはいなかった。そして身体中の鰭を触手の様に伸ばし、エンジェルキャリアーを捕獲する。
「三尉っ!」
必死に足掻けど抜けられない。BEASTは捕獲したエンジェルキャリアーを口元に引き寄せた。
すると口の奥から更にグロテスクな顎を剥き出し、エンジェルキャリアーを嘗め回す様に舌をびらびらとうねらせた。
「なんだよ…これ…」
九十九の表情が崩れる。
「援護はできんのか!?」
管制車に小笠原の声が響く。
「敵と近すぎます!撃てばエンジェルキャリアーも無事では済みませんよ!」
「三尉っ…!」
BEASTはまるで品定めでもする様に、エンジェルキャリアーを嘗め回す。
「ふ…ふざけんなっ!」

エンジェルキャリアーの両目が妖しく光る。
次の瞬間、エンジェルキャリアーを中心に光が広がり、何とも解らぬ力で放射状に海水が波打つ。
「キシャァァッ!!」
BEASTの悲鳴が響く。エンジェルキャリアーを捕らえていた鰭は引き裂かれ、周囲に血が漂う。
エンジェルキャリアーは光を放ちながら、BEASTに突撃する。
「くたばれバケモノ!」
エンジェルキャリアーの右手手刀がBEASTを切り裂いた。

ドン。

断末魔を上げながら、BEASTは爆発する。爆発は水面に高い飛沫を立て、太陽を遮った。
「三尉…」
飛沫が静まると、そこにはエンジェルキャリアーの姿があった。太陽の後光を受け、神秘的な光を放つその姿は、まるで天使の様だった。


「煤原三尉、大丈夫か!?」
気付くと九十九は、テントのベンチに横になっていた。
「小笠原二尉…」
「よくやってくれた。三尉。救護班、三尉が目覚めた。来てくれ。」
九十九はゆっくりと上体を起こし、自分の両手を見つめる。
「…生きてる…」
九十九は小さく呟く。誰に言った訳でもなかったが、小笠原がそれに応えた。
「ああ。我々も生きている。君のお陰だ。ありがとう、三尉。」
普段はどこか尖った素振りの彼女からは、想像もつかない優しい言葉だった。


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