暴走堕天使エンジェルキャリアー


[03]選ばれた道


軍用車に乗せられ数十分。九十九はある場所の地下で降ろされた。もちろん、両肩を軍の男に掴まれたまま。
「煤原、とか云ったな。着いてこい。」
白衣の女がそう言い、九十九達を先導する。

無機質な自動ドアを幾つか潜り、エレベーターで更に数階地下へ下りる。
そして、厳かな扉を抜けると、広い部屋の真ん中に男が立っていた。
「エンジェルキャリアーを操縦していたと思われる者を連行いたしました。」
白衣の女が敬礼しながら言った。
「ご苦労、小笠原二尉。」
男が振り向き応える。
「君がエンジェルキャリアーを、ね。」
「はっ。煤原九十九と申す者です。」
男が九十九に近寄る。そして、九十九の瞳を見つめながら言った。
「良い瞳だ。なかなか正義感の強そうな瞳だね。―だが、愚直な瞳だ。」

愚直。

その言葉に九十九はムッとする。
「何なんですか、あんたは。」
九十九は男の瞳を睨みつける。
「口に気を付けろ、少年。こちらは自衛軍特務隊司令官、山本五十六一佐であられるぞ。」
小笠原と呼ばれた女が九十九を制する。だが九十九は、知ったことかと云わんばかりに視線を反らさない。
「貴様っ!」
小笠原の叱咤が飛ぶ。だが、山本と呼ばれた男はそれを制する。
「よい、二尉。すまんね、少年。突然の事で困惑しているかも知れんが―」
山本が指をパチンと鳴らす。
すると、床の模様が消え、エンジェルキャリアーの様子が写される。どうやら床一面が巨大なモニターらしい。
「さっきの…」
九十九が呟く。
「エンジェルキャリアー。君が戦った…我々が「BEAST」と呼ぶ存在と戦うための兵器だ。」
「…」
九十九はどう応えていいのか分からないようだった。
山本は続ける。
「既に実戦に出たとは云え、これとBEASTの存在は現時点で軍の最重要機密でね。君の様な一般人の目に触れる事も、増してやこれに乗り戦うなんて事はあってはならないのだよ。」
「…それで?」
九十九は息を飲む。続く言葉が容易に想像できたからだ。
そして、想像通りの言葉が山本の口を割った。
「機密保持の為、君を銃殺に処す。」
想像していたとは云え、信じたくない言葉だった。九十九は黙ったまま微動だに出来なかった。
暫しの沈黙。

その沈黙を破ったのは山本だった。
「―だが…君の様な若者の命を奪いたくもないし、我々としてもそれは好ましくなくてね。」
「…どういう…事ですか?」
九十九は話の先を促す。
すると、小笠原が口を開いた。
「恥ずかしい話たが、我々が選出した数名のエンジェルキャリアーのパイロット候補は、あれの起動に成功していない。現時点であれを起動させ、且つBEASTを殲滅できたのは君だけなのだ。」
小笠原に代わって山本が続ける。
「そんな貴重な人材を殺処分することはしたくないのだよ。」
「…つまり?」
「どうだろう。エンジェルキャリアーの専属パイロットとして軍に身を置かんかね?こちらも相応の待遇で迎える準備があるのだが。」

単純に考えると悪い話では無い。だが実際にはそれは、「理不尽な二択」だった。
暫しの沈黙の後、九十九が口を開く。
「…断れば銃殺ってことですね…?」
山本も小笠原も応えない。それは暗にYESと答えているようなものだった。
「端から選択肢なんか無ぇじゃねぇか。」
九十九は眼を鋭くして山本を睨みつける。山本は気にもしない素振りで応える。
「決まりだな。二尉、彼を案内してやってくれ。」
「はっ。着いてこい、少年。」
九十九は小笠原に連れられ部屋を後にした。
一人になった部屋で、山本は呟く。
「やはりガブリエルは彼を選んだか…過酷な運命だな…」


「で、ここはどこなんですか?小笠原さん。」
廊下を歩きながら九十九が小笠原に話しかける。
「小笠原「二尉」だ。軍に籍を置くなら規律を守りたまえ。煤原三尉。」
九十九は溜息を吐き、やや棒読みで言い直す。
「で、ここはどこでありますか?小笠原二尉。」
「自衛軍特務隊指令本部。位置的には首相官邸の地下だ。特務隊は首相直轄の部隊だからな。」
「あの広い地下鉄と云いこの本部と云い…東京の地下にこんなもんがあるとはね。」
「そう驚くことでもない。東京タワーの真下にフリーメーソンのグランド・ロッジがあるんだ。シェルターや軍施設があってもおかしくは無いだろう。」
「そんなもんですかね。」
二人は廊下を歩いていく。しばらく歩き、扉の前で小笠原が立ち止まる。
「ここがロッカーだ。制服が用意してあるから着替えてこい。」
準備の良さに不信感を抱きながらも、九十九はロッカールームへ入っていく。
それを見送り、一人になった小笠原が小声で呟く。
「予定通り、か。許してくれ、煤原君。」


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