暴走堕天使エンジェルキャリアー


[37]春日、突貫 中編


「そうか、わかった。士長は戻らなくていい。そこに居てくれ。」
小笠原は受話器を戻すと小さく溜息を吐き、官制室に駆け付けた九十九達に向き直りゆっくりと口を開く。
「水無月二尉は命に別状は無い。だが重度の神経逆流の後遺症で意識はまだ無いと。」
それを聞いた九十九は俯き、舌を打ち鳴らした。その様子を見た長門が九十九に声をかける。
「一尉のせいじゃないです。あんなのは想定外でしたから。」
「…」
九十九は何も応えなかった。小笠原は九十九の様子を気にかけながら、動揺を隠し口を開く。
「ともかく。敵がまだ動けないというのは僥倖だ。今のうちに態勢を整え策を練らねばならない。長門准尉、キャリアー両機の整備を。」
「了解しました。」
長門は小笠原に敬礼すると、駆け足でドックへと戻っていった。小笠原は長門を見送ると、九十九の側に立ち肩に手を添える。
「すまない、私のミスだ。」
「いえ…」
九十九は小笠原の手に自分の手を重ね、弱く嗚咽を漏らした。

「ミサイル発射!」
小笠原の指示でウェポンビルからミサイルが放たれる。ミサイルは真っ直ぐに、腰を下ろし修復を待つBEASTを目指す。
だが、ジュニア達に阻まれBEASTには一つも着弾しなかった。
「次、MB砲発射!」
ウェポンビルからマイクロブラックホールが放たれるも、ジュニアの一体の掌で弾かれ、マイクロブラックホールは虚空で蒸発する。
「やはりジュニアを何とかせねばな。」
小笠原は親指の爪を噛む。
「しかし現行の兵器はジュニアに通用しません。キャリアーを使うにもジュニアのレンジがこうも広くては…」
官制官の一人が音をあげる。
「弱音を吐く暇があるならどうすれば攻略できるかを考えろ!」
小笠原は自分でもわからないうちに、険しい顔で怒鳴っていた。だがすぐに我に帰り、冷静さを取り戻した。
「すまん…」
小笠原の爪はぼろぼろになっていた。

「一。」
ドックでエンジェルキャリアーの整備をすすめている長門の元に、九十九がやってきた。
「一尉、どうしました?」
数人の整備兵に指示を出すと、長門は九十九のところへ下りてきた。
「MB砲なんだけどさ、連射できるようになんないか?」
「連射、ですか。」
長門はノートパソコンを開くと素早くキーボードを叩く。
「砲身冷却に30秒、重水素注入に15秒、マイクロブラックホールの生成に30秒ですから…次発まで最短でも45秒かかりますね。」
「けっこうかかるな…連射できりゃキャリアーで突貫できんだけど。」
九十九は腕を組みうんうんと唸る。
「何かいい作戦でも?」
長門が声をかける。
「ああ。MB砲でジュニアの動きを牽制してる間に本体に突貫できればイケると思うんだ。」
「そうですね…それだと45秒は長すぎますね。」
今度は長門も一緒に腕を組み、うんうんと唸りだす。しばらく唸ると、九十九は電球マークか見えるほど、満面の笑みを浮かべる。
「そうだ、なにも銃で牽制しなくてもいいんだ。」
「え?」
「晴紀を呼ぶ。一はシミュレーションの用意を。」
九十九はそういって携帯を取り出し、春日をドックへ呼び出した。


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