暴走堕天使エンジェルキャリアー


[36]春日、突貫 前編


「BEASTより衝撃波来ます!」

ドン。

鈍い音とともに、幾つかのウェポンビルが破壊され、街に放置された車両も衝撃波によって蹴散らされる。
BEASTの右翼と左翼にそれぞれ展開したガブリエル、ラファエルの両機も激しい衝撃波を受け、バランスを崩す。
「これじゃ近付けないじゃない!」
「衝撃波自体は大したことないけど…」
どうやらBEASTは一定範囲内に外敵が迫ると、衝撃波を放つという戦法を採っているらしかった。仮に範囲外から飛び込もうとしても、エンジェルキャリアーの手が届く前に、BEASTの衝撃波によってレンジ外へと弾き飛ばされるだろう。

「MB砲、発射準備整いました!」
管制室のスピーカーから長門の声が聞こえた。その知らせを聞いた小笠原はこくんと頷く。
「MB砲、発射!」
小笠原の声に合わせマイクロブラックホール砲が放たれる。マイクロブラックホールはBEASTを貫通し、虚空で蒸発した。
マイクロブラックホールの直撃を受けたBEASTは、悲鳴をあげながら崩れていく。
「やった!」
彩夏が語尾にハートマークでもついているような口ぶりで言う。だが次の瞬間、彩夏の左肩に激痛が走った。
「あやっ!」
九十九が叫ぶ。見ると、崩れ落ちたBEASTの周りに、胎児の様な姿をしたモノが7体立っていた。
そのうちの一体の腕が長く伸び、ラファエルの左肩を刺し貫いていた。
「ぁっあぁ!」
彩夏は利き腕を刺され、激しい苦痛に顔を歪めている。九十九は直ぐさまガブリエルで突貫し、長く伸びた腕をシャイニングフィンガーで切り裂こうとする。
だが、瀕死ながら未だ息絶えないBEASTの衝撃波によって敢え無くレンジ外へと弾き飛ばされた。その間にも彩夏は悲鳴をあげていた。

「生体インターフェイスカットします!」
彩夏の悲鳴に堪えられなくなった春日が、独断でラファエルの生体インターフェイスをカットする。彩夏とのリンクを切られたラファエルは、その場で崩れ落ち膝をつく。
「35号ゲート解放!搬送はBの3Mから、ラファエルの回収急いでください!衛生兵は非常ドックで待機!」
春日がキーボードを叩きながらきびきびと指示を出す。
「士長…」
その様子を、小笠原は静かに見守った。そしてインカムを取り、九十九に指示を出す。
「煤原一尉、一時撤退だ!敵の攻撃に備えつつ42号ゲートへ向かえ!」
「了解!」

ドックに搬入されたラファエルから彩夏が救出される。傷は見た目よりひどいらしく、彩夏の顔は脂汗に塗れていた。
彩夏はそのまま搬送台に乗せられ、ICUへ移送される。その脇には春日の姿があった。
「二尉、大丈夫ですか!?」
「士長…大丈夫よ、当たり前じゃない…」
彩夏は息を荒くしながらも、笑顔で春日に答えた。そして彩夏はそのままICUへ入っていった。

エンジェルキャリアーが撤退してからはBEASTに目立った動きは無かった。と言うよりは、自己修復の為にその場から動けないようであった。
しかしBEASTを取り囲んだ胎児の姿をしたモノ―(便宜的に特務隊ではジュニアと命名した)に阻まれ、こちらも攻撃出来ないでいた。


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