暴走堕天使エンジェルキャリアー


[38]春日、突貫 後編


「晴紀、準備はいいか?」
ラファエルのコクピットに九十九の声が響く。負傷した彩夏の代わりに、春日がコクピットに座っていた。
「大丈夫です、一尉。」
やや自信なさ気な声で春日が答える。普段と違い、初めての前線での作戦。
つまりは初陣である。レバーを握る手が僅かに震えていた。
「士長、シュミレーション通りやればいい。煤原一尉の合図で敵の懐に飛び込め。いいな?」
「はい。」
緊張からか奮起からか、語尾に力がこもっていた。
「目標、動き出しました!」
管制官の一人が言う。自己修復を終えたBEASTがジュニアを連れ進攻を始める。それにあわせ、小笠原が作戦開始の合図を出す。
「ミッションレコーダー、回せ。」

ガブリエルがジュニアの伸びる腕を紙一重でかわしつつ、BEASTに向かい進攻する。春日が乗るラファエルはその後方で、マイクロブラックホール砲を抱えていた。
素早い動きでジュニア7体を相手にするガブリエル。攻防をかわしながらじわじわとBEAST本体に近付いていく。
そしてガブリエルのシャイニングフィンガーが1体のジュニアを薙ぎ払う。途端、BEASTは悲鳴をあげながら、衝撃波を放つ。
「効かねえよ!」
ガブリエルはシャイニングフィンガーで衝撃波を弾き返す。
「今だ、晴紀!」
「はい!」
九十九の合図でラファエルが駆け出し、地を蹴り大きくジャンプし、ジュニア達を飛び越え一気にBEASTの直上に達する。そして抱えたマイクロブラックホール砲を左脇に構える。
刹那、BEASTの両目がギラリと光り、ラファエルの左肩を熱線が焼く。
「っあ!」
間髪を入れず、BEASTは衝撃波を放ちラファエルを退ける。
「晴紀っ!」
ラファエルはそのままレンジ外まで飛ばされ、ビルを薙ぎ倒し豪快に倒れ込む。
「士長!」
小笠原の声がコクピットに響く。
「だ、大丈夫です!」
ラファエルはゆるりと立ち上がる。しかし先の戦闘と熱線で焼かれた左腕は、力無くだらりとしていた。
「ラファエル左腕損傷、ダメージレベル5です!」
今度は管制官の声が響く。
その間にも、ガブリエルはジュニアと交戦している。戦況は少しずつガブリエルにとって不利に傾いていく。
「晴紀、いけるか!?」
「いけます!」
そう言うと、春日はラファエルを駆り再びBEASTに突貫する。しかし、それを見越したかのように、BEASTは両目を光らせ熱線を放つ。
ラファエルは再び左腕に熱線を浴びるも、空中でマイクロブラックホール砲を右手に構え直す。
「俺は両利きなんだよっ!」
春日が叫ぶが早いか、BEASTは更に衝撃波を放つ。すんでのところでラファエルは弾かれ姿勢を崩す。
「晴紀!」
弾き飛ばされたラファエルの左足をガブリエルが掴み、自身の元へと引き寄せる。そしてマイクロブラックホール砲の照準が、BEASTを捉える。
「いけぇ!」
ゼロ距離でマイクロブラックホールの直撃を受けたBEASTが、悲鳴をあげのけ反る。そして、武器を捨てたラファエルのシャイニングフィンガーがBEASTを貫き、引き裂く。
BEASTは身体から光の柱を上空に放ち、ジュニアを引き連れ消えていった。


「ん…」
彩夏が目を覚ますと、隣に春日が座っていた。彩夏の視線に気付いた春日が声をかける。
「二尉、大丈夫ですか?」
彩夏はゆっくりと上体を起こし、辺りを見回す。そして、春日以外に誰も居ないことを認識する。
「BEASTは?どうなったの?」
「やっつけましたよ、僕と一尉で。僕がラファエルに乗って戦ったんです。もう見せたかったくらいですよ。」
春日は満面の笑みで答えた。
「そう。仇打ってくれたってことね。」
「はい。あ、これ差し入れです。」
そう言って春日が缶コーヒーを手渡す。
「苦いのじゃないじゃない。」
「あ、すみません、つい…」
そう言いながらも、彩夏は詮を開け一口くちにする。
「―甘いのも、悪くないわね。」

やわらかい風が、病室のカーテンを揺らしていた。


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