暴走堕天使エンジェルキャリアー


[35]Black or Sugar?


「MB砲発射準備!」
官制室に小笠原の声が響き渡る。マイクロブラックホール砲の照準は人型のBEASTに向けられている。
「発射!」
小笠原の声とともに、マイクロブラックホールが放たれる。が、BEASTは左腕を振り払いマイクロブラックホールを虚空へと弾き飛ばした。
そこに間髪入れず、ラファエルの踵がBEASTの脇腹に極まる。BEASTは豪快な音をたてながら、ビルを押し倒し転倒した。
「ラストっ!」
彩夏の声に合わせラファエルの左手が白く光る。ラファエルは左腕を大きく振りかぶり、打ち倒されたBEASTの胸を目掛け腕を振り下ろす。
シャイニングフィンガーの直撃を受けたBEASTは奇声をあげ、白く光りながら虚空へと消え、空に白い羽根が舞った。


「お疲れ様です、二尉。」
コクピットから降りてきた彩夏を長門が迎える。そして長門はきびきびと、整備班に指示を出していた。
整備員に囲まれドックへ移動させられるラファエルを、彩夏は静かに見上げていた。
「どうかしましたか?」
そんな彩夏に気付いた長門が、彩夏に声をかける。
「なんでも。整備、よろしくね。」
そう言って彩夏はロッカールームへと歩いていった。そんな彩夏と入れ替わりに、春日がドックへ走って降りてきた。
春日は長門の元へ着くと、息を切らしながら言う。
「はじめ、二尉は?」
「残念。ロッカールームだよ。」
「ちっ!最短距離で走ってきたってのに…」
長門は本気で悔しがっている春日の肩を叩いて声をかけた。
「なんて言うか…タフだな、晴紀は。」
ドックにはフォークリフトのモーター音が響いていた。


着替えとシャワーを終えた彩夏は喫煙所でタバコを吹かしていた。そんな彩夏の頬に突然冷たい何かが触れ、彩夏は短い悲鳴をあげ振り返る。
見ると、九十九がにやけた顔で缶コーヒーを手にしていた。
「お疲れ。ほら、ブラック。」
九十九はそう言って缶コーヒーを彩夏に手渡す。
「あ、ありがと。」
九十九はコーヒーを手渡すと彩夏の隣に腰掛け、彩夏に自分のオレンジジュースを渡す。彩夏はそれを受け取り、詮を開け九十九に返した。
「手、まだダメなの?」
「うん。」
先の戦闘で負傷した九十九の左手には、包帯が痛々しく負かれていた。
「たばこ…シスターが止めろって言ってたろ?」
そう言いながら九十九は彩夏のタバコをひょいと取り上げ、一本抜き出して火を点ける。一口吹かすと、九十九は盛大にむせ返った。
彩夏は笑いながら九十九の背中をさする。
「なんでこんなもん好き好んで吸えるんだよ…」
九十九はこほんこほんとむせながら言う。それを聞いた彩夏は笑うのをやめ、小さく言った。
「あんなだったんだもん。これくらいしなきゃやってられないわよ。」
九十九は無言で彩夏の言葉を肯定し、二人の間に暫しの沈黙が訪れた。

「あ、居た居た、二尉。」
突然、春日が沈黙を破り訪れた。
「お疲れ様です。はい、これ。」
春日は手に持った缶コーヒーを彩夏に差し出す。彩夏はそれを一瞥すると、やや冷たく口を開く。
「あたしブラックしか飲まないの。自分で飲みなさい。」
その言葉に春日の表情は凍りついた。その様子を見て九十九は顔を手で隠して笑いをこらえていた。
「じゃあ俺、診察があるから行くわ。あんまり晴紀のこといじめるなよ。」
「失礼ね、いじめてないわよ。ね、士長。」
「大丈夫です…これくらいじゃくじけません…」
九十九はこらえられずからからと声を出して笑い、春日は顔を真っ赤に染め鼻をすする。彩夏には九十九が笑う理由がわからなかった。
半泣きの春日を見てバツが悪くなった彩夏は、春日の手からコーヒーを引ったくる。
「しょうがないわね。後で飲んであげるわよ。」
その言葉を聞いた春日の顔に、一瞬にして笑顔が戻る。

そこに、整備を終えた長門がやってきた。
「あ、准尉…」
「なんですか、みなさんお揃いで。あ、二尉、ラファエルの整備終わりましたよ。」
長門は笑顔で彩夏に向き返る。だが彩夏は頬をうっすらと赤く染め、長門から目を逸らした。
「あ、うん…ありがと…」
一連の様子を見届けた九十九は、喫煙所の空気がひどく渦巻いていくのを感じていた。


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