暴走堕天使エンジェルキャリアー


[33]長門と春日のわくわく発見マイタウン 前編


「ついに覚醒したか。」
「はい。」
山本の司令室のモニターに、先の戦闘の様子が映されている。山本は頬杖をつき、小笠原は直立して、じっとモニターを見つめている。
「それで、パイロットの容態は?」
「目立った外傷も無く直に目を覚ますかと。」
山本はうん、と頷くと、モニターの電源を落とす。そして、ゆっくりと呟く。
「直に世界が目覚める。」
山本は薄く笑みを浮かべた。


「で、相談ってなに?」
若者が目立つ繁華街のファーストフード店のテーブルに、長門と春日の姿があった。長門は礼儀良く椅子に座り、真摯に春日の話の先を促す。
「えぇと…水無月二尉の事なんだけど。」
「イジメに耐え兼ねた?」
長門はコーヒーをすすりながら茶化す。
「いや、その…逆なのよ。」
春日の言葉の意味が解らず、長門は言葉を返せないでいた。言葉の意味を探ろうと思案している長門に、春日が話を切り出す。
「俺、水無月二尉の事が好きになった。」
長門は目を丸くして、氷だけになった紙コップをストローでズルズルと言わせていた。そして目線を落としゆっくりと息を吐くと、再び春日に目線を戻し、訊く。
「LIKE?」
「LOVE。」
春日は即答する。
「いつから?」
「二尉の歓迎会くらいから。」
「…M?」
「違う。」
「ドM?」
「違う。」
「めちゃドえ―」
「もういいって。」
二人の間に沈黙が訪れた。そして暫くして、春日が沈黙を破った。
「だから…一尉とはどんななのかなって思って。」
「どんなって?」
「ほら、孤児院で一緒だったとか、こないだの一尉の見舞いの時も部屋に居たし…」
春日はストローで紙コップの氷をくるくると掻き回している。長門は背もたれに身体を預け、腕を組んでうーん、と何やら思案している。
そして短い沈黙の後、長門が口を開いた。
「あの二人はそんなんじゃないと思うけどなぁ。―あ。」
長門が不意に漏らした小さな言葉に春日が食いつく。長門は愛想笑いと冷や汗を浮かべるも、春日の鋭い視線に射抜かれ、観念して口を開く。
「この前のアラートの朝にさ―」
長門は以前あった彩夏のタバコのくだりを話す。すると見る見る、春日の顔が歪んでいく。
終いには今にも泣き出しそうなほどに、目尻が垂れていった。長門はバツが悪そうに目線を泳がせ、苦笑いを浮かべ頬を掻いた。

そして、時間が過ぎ舞台は繁華街の居酒屋に変わる―

「そんな深い意味はないって。ね?―ほら、とりあえず飲んで。」
そう言いながら、長門は春日のコップにビールを注ぐ。春日は無言でそれを飲み干す。
「ちくしょぉ…次の出撃の時にあれをこーしてあーして…」
春日が何やら不穏当な愚痴をこぼす。長門は苦笑いをするしかなかった。
すると春日が急に前のめりになり、長門の眼前に迫り、言った。
「はじめ…」
「な…何よ?」
「俺達、親友だよな?」
春日は長門のひとつ年下で、同じ高校に通っていた仲だった。
「キャリアーのコードの2、3本も引っこ抜いて…」
春日が言葉を言い終える前に、長門は春日の頭をテーブルに押し付けた。何事かと思い声をあげようとした春日に、長門は「しっ!」と人差し指を立てる。
長門の見詰める先には、カウンターに一人腰掛ける小笠原の姿があった。春日もそれに気付くと、ゆっくりと上体を起こす。
「三佐…だな。一人で居酒屋なんてイメージ合わないなぁ。」
春日がつぶやく。すると長門が、隣を見ろと言いた気に目配せする。見ると、隣の椅子にバッグを置いている。
「誰か待ってるんだね、あれは。」
「ほぉう。誰かが気になるな。」
長門と春日は顔を見合わせ、下世話にもいやらしい笑いを浮かべる。
長門は普段はこんなことはしないのだが、どうやら酒と春日のノリに感化(侵食?)されているようだった。


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