暴走堕天使エンジェルキャリアー


[31]Angel's Stabber 後編


「とにかく形にして!毎度だけど頼んだよ!」
「任せてください、主任!」
ドックでは長門の指示で、マイクロブラックホール砲の改修作業が進められていた。すると、長門の携帯端末に着信が入る。
小笠原からであった。
「30分…いや、20分で出来るか?」
「10分以内でやってみせます。」
「すまない、頼む。皆にもすまないと伝えてくれ。」
「わかりました。」
そう言って長門は通信を切る。そして、ふーっ、と息を吐き、大きな声で言う。
「突貫するよ!気合い入れて!」
長門の激で、ドックに「おう!」という声が響いた。

その頃、二機のエンジェルキャリアーのコクピットには、荒い息が響いていた。とりわけ、九十九は異常なほどに、息を荒くしていた。
「一尉、大丈夫か?」
小笠原がインカム越しに声を掛ける。
「…大丈夫ですよ…」
九十九は力無くそう言うと、シート下のファーストエイドケースから簡易注射器を取りだし、左の二の腕に当てスイッチを押す。
「くそっ…手首が痺れやがる…」
九十九は小さく呟く。だがその声は、誰の耳にも届いていなかった。

しばらく間合いを伺っていたエンジェルキャリアー二機とBEAST。そのぴりぴりと張り詰めた空気を、BEASTが切り裂いた。
BEASTは力強く地を蹴り、一瞬にしてラファエルとの間合いを詰める。そして、刃物と化した両腕を振り抜く。
「あやっ!」
「それがどうしたってね!」
ラファエルはしなやかな動きで斬撃をかわす。だが、BEASTの攻撃は止まない。
ラファエルは華麗に、BEASTの攻撃をかわしていく。しかし、やがてラファエルの退路はビルに遮られ、BEASTがラファエルを追い詰める。
「しまった…」
そしてBEASTは、両腕を振りかぶる。
「なんちゃってね。」
彩夏がべーっ、と舌を出すと、突然目の前のBEASTの姿勢が崩れ、BEASTの頭上の空間が歪んだ。
「ナイスショット!准尉!」
見ると、ウェポンビルの内部から巨大な銃身が覗いていた。それは、整備班が突貫でこしらえたマイクロブラックホール砲だった。
「なんとか間に合いましたね。次発準備、ヒューズ交換急いで!」
長門が整備班に指示を出す。しかしその間に、BEASTはゆっくりと姿勢を正し、再び両腕を振りかぶる。
そこに、ラファエルの蹴りが極まる。
「だありゃああぁっ!」
BEASTは豪快に後ろに吹っ飛び、轟音をあげながらビルを押し崩し倒れ込んだ。
「甘く見るんじゃないわよ。」
ラファエルは左手を白く輝かせながら、ゆっくりとBEASTに詰め寄る。そして立ち上がろうとするBEASTを右足で踏み付け、左手を高く振り上げる。
「形勢逆転ってやつね。」
語尾にハートマークでも付いているような口ぶりでそう言い、一気に左手を振り下ろす。

だが、その左手は空を切った。
「えっ?」
刹那、ラファエルのコクピットが赤く染まり、「advance warning」の文字が浮かぶ。黒く陰ったラファエルの背後に、BEASTの姿があった。
「なんで!?」
彩夏の驚愕をよそに、BEASTはゆっくりと両腕を振り上げる。
「MB砲発射!」
小笠原の激でマイクロブラックホール砲が放たれる。だがBEASTはマイクロブラックホールさえその両腕で弾き飛ばし、マイクロブラックホールは虚空で蒸発する。
「なっ!?」
そして再び、BEASTは両腕を振り上げる。
「っ!」
彩夏は恐怖に目をつぶる。


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