暴走堕天使エンジェルキャリアー


[29]それぞれの言葉(2)


酒盛りは続いていた。

乾杯から二時間以上が経過していたが、誰ひとり潰れることはなかった。そうこうしている内に、皆が持ち寄った酒と肴が無くなってきた。
すると、顔触れで一番階級の低い春日が買いに行くと言い出したが、小笠原の「今日は無礼講だ」という言葉で、じゃんけんで買い出し要員を決める事になった。

「あー、ついてねぇな。」
九十九は夜空を見上げながら呟く。
「僕は端から買いに行く気だったからなんとも。」
九十九の愚痴に春日は苦笑いで応えた。
「そういやさ、士長とまともに話しするのって初めてじゃない?」
九十九が春日に向き返り訊く。
「そういえばそうですね。いつもはインカム越しでしか話さないですもんね。」
「だよな。そーいや俺、士長の名前知らないんだけど。」
「晴紀です。晴れるに世紀の紀ではるき。」
「おっけ。覚えた。でさ、敬語やめてくんない?何かくすぐったくてさ。」
「いやぁ、一尉は上官ですから…階級もかなり上ですし…」
春日は苦笑いで応える。すると九十九は、春日がに向き返り言った。
「俺は気にしないよ。プライベートくらいタメ口でいいじゃん。三佐も無礼講って言ってただろ?」
九十九の言葉に春日はしばらく「うーん」と唸り、そして、顔を上げ応える。
「じゃあ…努力します…じゃない、努力するよ。」
控えめにそう言った春日に、九十九は声を出してからからと笑った。
「おっけ。次敬語使ったらビール一気だからな。」
ふたりはからからと笑いながら、コンビニへ入って行った。


一方、家主の居ない九十九の部屋には、小笠原、彩夏、長門という奇妙な組み合わせが、独特の空気を漂わせていた。
「二人とも遅いわねぇ。士長が居ないと暇ったらないわ。」
「だからって僕を突くのはやめてくださいよ…」
春日という遊び相手(?)が居なくなった彩夏は、長門の肩を割り箸で突っついて遊んでいた。多少酔っているらしく、割り箸を唇を尖らせて鼻の間に挟んだり、空き缶のプルタブを引きちぎったりしていた。
長門は苦笑いで彩夏の悪戯を受け流すと、手に持ったハイボールに口を付ける。すると横から、彩夏がまたしてもちょっかいを出す。
「もーらい!」
語尾にハートマークでも付けたような口調で、長門のハイボールを横取りする。
そんな彩夏を長門は苦笑いで、小笠原は微笑ましく見つめていた。
それから少しすると、買い出しに行っていた九十九と春日が返ってきた。扉を開けた九十九は、彩夏に絡まれている長門の姿を目撃し、声を掛けた。
「仲良いのはいいけどさ…人ん家でイチャこくなよ…」
その言葉を聞いた長門と彩夏は直ぐさま離れ、強く否定する。
「なっ、何言ってんのよ!そんなんじゃないわよ!エッチ!」
九十九は「はいはい」と受け流しながら、買ってきた飲み物とつまみをテーブルに広げる。こうして、再び賑やかな酒盛りが始まった。


「三佐。三佐。」
九十九が小笠原の肩を叩きながら名前を呼ぶ。どうやら小笠原は途中で眠ってしまったようだ。
「三佐、大丈夫ですか?」
長門が声を掛けるも返事は無い。次に九十九がしばらく揺さ振ると、小笠原は目を覚ました。
「ん…煤原君…」
小笠原はゆっくりと上体を起こす。そこに、九十九が声を掛ける。
「もう酒盛り終わりましたよ。立てますか?」
小笠原は無言で立ち上がる。すると直ぐさま、ふにゃんとソファーに倒れ込む。
「駄目だ、こりゃ。もうしばらく寝かせとくか。一はもういいよ。片付けサンキュー。」
「そうですか?じゃあお先に失礼します。」
長門は軽く頭を下げると、かなり酔っ払った彩夏と春日を連れて出て行った。
「まぁ…よっぽど疲れてたんだろうな。」
九十九はそう言うと、小笠原にタオルケットを掛け、リビングの電気を消した。

長門達と春日は早めに別れ、彩夏と長門で談笑しながら、帰路を辿っていた。そして、ある交差点に差し掛かった。
「じゃあ僕、こっちなんで。お休みなさい。」
長門は軽く会釈する。すると、彩夏が何かぼそぼそと喋っていた。
「?―どうしました?」
長門が尋ねる。すると彩夏は長門の服の裾を掴み、顔を伏せながら言った。
「お、女の子を夜道に一人にするなんて、その…紳士的じゃ無いんじゃないの…?」
酔っているとはいえ、彩夏からそんな言葉が出るとは思わず、長門は目を丸くした。
「男だったら…ちゃんと家まで送るのが普通でしょ?」
長門は小さな溜息を吐き、薄く笑ながら応えた。
「わかりました。家までお守り致します。」
「当然!さ、行くわよ。」
長門は「はいはい」と言いながら、彩夏の隣を歩いて行った。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.