暴走堕天使エンジェルキャリアー


[28]それぞれの言葉(1)


BEASTがラファエルのマイクロブラックホール砲を弾き飛ばすと、エンジェルキャリアー1号機の光波防御シールドが衝突の衝撃で粉砕された。そしてその後の衝撃波で、砕けた破片は四方に飛び散る。
エンジェルキャリアー1号機は足元の地面を陥没させるも、素手でBEASTを受け止めていた。ここで、九十九のものと思われる叫び声が聞こえる。
そしてエンジェルキャリアー1号機は咆哮をあげ、BEASTを殲滅する。

「―以上が1号機のミッションレコーダーを解析した結果です。」
明かりを落とした部屋の壁に、映写機の映像が映されていた。プレゼンしていた春日の言葉が終わると、部屋に明かりが点る。
「解った。映像記録は報告書と一緒に提出してくれ。春日士長、退がっていいぞ。」
小笠原が春日に指示する。春日が退室すると、小笠原は組んだ手を額に当ててうずくまり、小さな溜息を漏らした。
「一歩間違えば煤原君は無事では済まなかったろうに…これも本当に予定通りなのか…?」


九十九は自室のベッドに仰向けに横たわり、手首を額に乗せ呆けていた。そして、小さな声で呟く。
「あの時聞こえたのは…気のせいなのか?」
疑念を口に出してみても、心のもやは晴れなかった。九十九はそんなやりきれなさに溜息を漏らす。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「長門です。一尉、居ますか?」
九十九はドアを開け、長門を迎える。長門の背後には、彩夏の姿もあった。
見ると二人は、両手に買物袋を携えていた。
「あやまで、何?どうしたの?」
彩夏と長門という不思議な組み合わせに面食らった九十九は、きょとんとした目で尋ねる。すると、彩夏が応えた。
「何って、お祝いよ。祝勝会。」
「はぁ…」
九十九は言葉を失う。が、直ぐに気を取り直し、とりあえず二人をリビングに迎えた。
「にしても…何でそんなに買い込んで来たわけ?」
二人が持って来た大量の酒とつまみを見て、九十九は溜息混じりに尋ねる。
「小笠原三佐と春日士長も誘ったんですよ。そのうち来ると思います。」
長門はそう言いながら、袋の中身をテーブルに出す。
「…俺の都合は関係無いってか…はぁ…」
九十九は大きく溜息を吐いた。
「まぁまぁまぁ。もう来ちゃったんだし、こんなに買って来たのよ。もうここでやるっきゃないでしょ!」
彩夏は満面の笑みで言った。すると、またしてもドアをノックする音がした。
「一尉、小笠原だ。」
「あ、僕が出ます。」
長門はそう言って、小笠原と春日を迎えた。
「マジで来たよ…」
九十九は再び大きな溜息を吐いた。

「えっと…じゃあ音頭は小笠原三佐、お願いします。」
何故か、長門が場を仕切っていた。小笠原はコホンと咳ばらいをすると、どこか照れ臭そうに音頭をとる。
「えぇ、では。煤原一尉、水無月二尉の両名の快気祝いと白星を祝って…乾杯。」
「かんぱーい!!」
各々が好きなように、酒を呑み、アタリをつまみ、他愛ない会話に華を咲かせていた。最初は一歩退いた態度だった九十九も、いつしか輪に入り、笑顔を浮かべていた。
そんな九十九を見て、長門は柔らかく笑う。そんな長門の視線に気付いた九十九は、長門に話し掛けた。
「何笑ってんだよ?」
「いえ。ようやく笑ってくれたんで。この間から元気無かったみたいでしたからね。」
九十九は手に持ったチューハイを一口啜る。
「バレてた?」
「隠せてると思ってました?」
長門は視線を九十九から外す。九十九は気恥ずかしそうに頬を掻いた。
そしてチューハイを呑もうと缶を持つと、既に空になっていることに気付いた。すると、長門が新しい缶を九十九に手渡す。
「一はそうやって、他人の事ばっか気にするんだな。」
「性分ですからね。」
そう言いながら、長門は彩夏や春日にも飲み物を配っていた。その様子を見て、九十九は自然に笑みを浮かべた。
そんな九十九に、今度は小笠原が話し掛けた。
「出来た人間だろう?彼は。彼の人望のお陰で、整備班は機能しているからな。」
「ほんとにそう思いますよ。俺なんかとは違って。」
九十九はそう言って、缶の詮を開ける。
「私は君にも感謝している。いつも無茶な命令しか出来なくて…本当にすまない。」
予想もしていなかった小笠原の言葉に、九十九は目を丸くした。その顔を見た小笠原は、視線を九十九から外しふっと小さく笑い、言った。
「少し酔ってしまったな。」
九十九には、何故小笠原が笑ったのか解らなかった。


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