暴走堕天使エンジェルキャリアー


[27]両翼の瞳 後編


そして数分後、エンジェルキャリアー両機がBEASTを捕捉し、大地を蹴り駆け出した。
「目標予想降下地点修正…あやは降下地点の後方500メートルで待機!MB砲の準備を!」
「OK!」
エンジェルキャリアー1号機は足元に砂煙を巻き上げながら、予想降下地点で身を翻し、光波防御シールドを天に向け構える。その後方でラファエルは腰を下ろし、光波防御シールドに向けてマイクロブラックホール砲を構える。
そして、雲を突き破りBEASTが降下してきた。
「来た!アブソーバー負荷率最大、あやっ!」
「オーライ!重水素注入、核融合開始!」
BEASTは轟音を引き連れながら、降下地点―エンジェルキャリアー1号機に向かって真っ直ぐ降下する。彩夏は額と掌に汗を滲ませながら、射撃用に追加されたスコープを覗く。

そして、BEAST本体が光波防御シールドに激突する。その衝撃でエンジェルキャリアーの足元が陥没するも、エンジェルキャリアー1号機は持ちこたえる。
「行っけえぇぇ!」
間髪入れずに、ラファエルがマイクロブラックホール砲を放つ。この間、僅か0.5秒。

が、直撃の瞬間、BEASTの翼の紋がまばゆく光り、マイクロブラックホールは天に弾かれ、天高く昇り蒸発した。
「なっ!?」
彩夏の驚愕を置き去りに、BEASTを中心に衝撃波が広がる。
「きゃあっ!」
「ソニックブームか!?」
衝撃波は凄まじい早さで周辺の建物や地面の表面を巻き込みながら広がり、後には粉塵が巻き起こった。

その様子を管制室でモニターしていた小笠原、春日以下管制官は、一様に驚愕の表情を浮かべる。
「まさか…」
「衝撃波到達、映像乱れます!」
地上に設置されたカメラに衝撃波が到達し、管制室のモニターが乱れ、管制室に耳が痛む程の沈黙が訪れた。
小笠原は取り乱し、インカムに向かい九十九と彩夏の名を叫ぶ。だが、通信も衝撃波の影響を受け、耳を刺すノイズが聞こえるばかりだった。

そして暫くして、モニターが回復した。
「映像一部回復…メインモニターに出します。」
春日により映されたモニターには、まるで大地震に見舞われたかのように荒れた街並が映し出された。その様子を見た管制官達は絶句し、ただじっとモニターを見つめていた。

「…によ…どうなって…のよ…?」
突然、管制室にノイズ混じりの声が聞こえた。
「ラファエルから通信!」
「二尉!無事か!?キャリアーは…煤原一尉は!?」
小笠原が叫ぶ。だがノイズが酷く、まともに会話が出来る状況ではなかった。恐らく、衝撃波によりラファエルの通信装置が異常を来たしたのだろう。
管制室からは全く状況が把握出来ない中、管制官の一人がモニターを見て叫ぶ。
「キャリアー両機のシグナルを確認!パイロット両名の生存も確認しました!」
「本当か!?」
小笠原が管制官に向き返る。
「はい!それと…微弱な敵性反応を検知…」
管制室の全員が、管制官に向き返る。すると、春日の声が響いた。
「映像完全回復、拡大画像、出します。」
再び全員がモニターに向き返る。
モニターに最初に映ったのは、仰向けに倒れ、瓦礫を被ったラファエルの姿だった。そして粉塵の向こうから、エンジェルキャリアー1号機とBEASTの姿がうっすらと浮かび上がる。

「なっ…」
モニターに映された様子を見て、皆が絶句する。
そこには、両目を赤く光らせたエンジェルキャリアー1号機が、白く輝く両手で、BEASTの胴体を貫いていた。
身を貫かれ身動きができないBEASTは、両翼の紋から白い光を放ち、エンジェルキャリアー1号機を包み込む。が、エンジェルキャリアー1号機の装甲表面で光は屈折して飛散し、虚空へと消えた。
そしてエンジェルキャリアー1号機は咆哮をあげ、白く輝く両手を左右に広げ、BEASTの両翼までも引き裂いた。
BEASTは悲鳴とも咆哮とも解らぬ声をあげ、白く光りながら虚空にその身を散らす。そして、真っ白な羽根が空に舞った。
その様子を間近で見ていた彩夏も、モニターを通して見ていた小笠原達も、ただ口を開き呆然としていた。

「敵性反応消失…目標の殲滅を確認しました。」
暫くの沈黙の後、春日が報告する。その声で我に返った小笠原は作戦の終了を宣告、撤収指示を出した。


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