暴走堕天使エンジェルキャリアー


[26]両翼の瞳 前編


「目標、降下軌道に乗りました。予想降下地点は本部直上より半径5キロメートル、予想到達時間は2時間15分後です。」
春日が手元のモニターを見ながら報告する。ブリーフィングルームには九十九、彩夏、小笠原と春日以下数名の管制官が集まっていた。
「聞いての通り、時間が無い。要点のみ伝えるのでよく聞け。」
小笠原は真剣な表情で、手元の資料を参照にしながら言う。
「じきに戦研から徴用した光波防御ビルの外壁が届く。キャリアー1号機はそれを使い降下してくるBEASTを受け止め、同2号機はマイクロブラックホール砲でこれを殲滅。これには二機のキャリアーの連携が重要だ。光波防御シールドを用いても落下の衝撃に耐えられるのは1秒も無い。その間にマイクロブラックホール砲で確実に目標を殲滅せねばならない。春日士長が試算したデータからシミュレーションプログラムを作成したので、煤原一尉、水無月二尉の両名は今より即刻シミュレーションを行ってもらう。その後一一三○(ひと、ひと、さん、まる)時にキャリアーで出撃、迎撃態勢に移る。以上だ。何か質問は?」
「いえ。」
「ありません。」
九十九と彩夏が返事をする。小笠原は二人の表情を見回し、無言で頷く。
「では二人は春日士長と共にキャリアーへ。」
「はい。」
九十九と彩夏は小笠原に敬礼し、春日と共に部屋を後にした。三人が出ていった部屋で、小笠原は肩を落とし俯き、小さく溜息を漏らした。
「どうしました?三佐。」
その様子を見た管制官の一人が、小笠原を気遣い声を掛けた。小笠原は俯いたまま、小さく呟く。
「いや…なぜ私はこんな無茶な命令しか出来んのだろうな…」
管制官は掛ける言葉が見つからず、ただ黙って小笠原を見つめていた。

数十分後、戦研から徴用した光波防御ビルのパーツが、特務隊に届いた。
「葛城班はシールド組み上げ!突貫だけど気を引き締めて!赤城班はブラックホール砲、残りはキャリアーの最終調整!」
ドックでは長門の指揮で各作業が進められる。その隣、ハンガーに掛けられたエンジェルキャリアーのコクピットでは、九十九と彩夏が模擬戦を行っていた。
モニターの中で、落下してきたBEASTを九十九のエンジェルキャリアーが受け止める。そして、彩夏のラファエルがマイクロブラックホール砲を放つ。
が、両機のコクピットが激しく揺れ、モニターが真っ赤に染まる。
「このタイミングでアウト!?」
彩夏が呟く。
「キャリアーが衝撃に耐えていられる時間は0.68秒しかありません。目視してからの反応じゃ遅すぎます。」
春日が手元のモニターを見ながら言う。
「解ってるわよ!火器管制の反応速度を0.3早く、照準システム解除、ロックオンは生体インターフェイスの瞳孔の動きから読み込み…」
彩夏は長門程ではないにしろ、凄まじい早さでキーボードを叩き、ラファエルの各部を調整する。
「つーくん、もう一回!」
「ああ。」
九十九も同じく、キーボードを叩きながらエンジェルキャリアーを調整している。モニターの中では延々と、模擬戦が続いた。
そして時間が過ぎ、作戦開始時刻を迎えた。

「キャリアー両機、配置に着きました。」
春日が報告する。エンジェルキャリアー1号機は整備班が突貫でこしらえた巨大な光波防御シールドを、ラファエルは携行式に改良されたマイクロブラックホール砲を、それぞれ携えていた。
「予想到達時間再計算。」
小笠原の指示で春日はキーボードを叩き、モニターに映された結果を伝える。
「再計算終了。到達時間は、7分後です。」
小笠原は無言で頷く。
「煤原一尉、水無月二尉、聞こえたな。」
「はい。」
「この後、目標が高度300メートルまで降下するまでキャリアーが自動追尾する。そこからは手動で操作し、目標を迎撃、殲滅してもらう。準備はいいな?」
「はい。」
二人の返事を聞いて、小笠原は頷く。
「死ぬなよ。―作戦開始!」
小笠原の檄に合わせモニターのタイマーが回り、ミッションレコーダーが起動する。


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