暴走堕天使エンジェルキャリアー


[24]シフト


その頃、自衛軍内部では大規模な組織改編が行われていた。具体的には、特務隊が総理大臣の元を離れ、統合幕僚長に就任した山本の指揮下に入った。
これにより、分隊だった特務隊が自衛軍の上位組織となり、事実上、山本統合幕僚長が軍の全権を握る事となった。

が、特務隊内部に主立った変化は無く、今まで通りの面々で運営される事となる。


それから数日、幸運な事にBEASTの襲来は無かった。その間に、東京に整備された迎撃システムの修復も山を越え、二機のエンジェルキャリアーの修理も完了していた。
そして九十九と彩夏も復隊し、特務隊内部にようやくの安堵感が広がった。
しかし、その短い平和と安堵は、けたたましい警報に引き裂かれ終わりを告げた。

「状況は?」
管制室に走り込んで来た小笠原が髪を纏めながら訊く。
「あさがおより入電。高度2000キロの衛星軌道上に敵性反応です。モニターに拡大画像、出します。」
モニターに映されたのは、両翼に目玉の様な紋を描いた、蝶の様な姿のBEASTだった。そのBEASTは、敵性反応こそ感知されているものの、これまでのBEASTと違い積極的に攻めては来なかった。
と云うよりも、ただふわふわと宇宙に浮かんでいた。
「キャリアー、出しますか?マイクロブラックホール砲なら…」
春日が小笠原に訊く。
「…届かんだろうな。」
小笠原は腕を組み黙り込む。
「ともかく、警戒態勢だ。キャリアー両機ともすぐ出れるようにしておけ。」
「了解。総員、警戒態勢。各員持ち場で待機。繰り返す―」

その頃、東京の空には民放のヘリが飛び交っていた。
「先程、政府から避難勧告が発令されました。ご覧になれますでしょうか?主要幹線は避難する方の車で―」
九十九と彩夏、そして長門以下数人の整備兵達が、ドックの真ん中に置かれたモニターの前に集まっていた。
「地上は忙しいわね。」
彩夏が呟く。
「何かおかしくないですか?」
「えっ?」
突拍子の無い長門の言葉に全員が顔を見合わせ、そして長門に向き返る。長門は皆の視線を一身に浴び少したじろぐも、言葉を続ける。
「情報管制はどうなってるんですかね?これから戦場になるような場所に民放のヘリが居るなんて…」
眉間にしわを寄せる長門に、彩夏が応える。
「そのうち避難するでしょ。今に今すぐ戦闘が始まる訳じゃ無いんだから。」
「まぁ、そうですけど…」
長門は口ごもる。その様子を見た九十九が、長門に声を掛けた。
「一は考えすぎなんだよ。心配性だし。」
「そうですね。」
長門は薄く笑って応えた。

そしてその日は戦闘にはならず、隊員は警戒態勢のまま夜を越え、やがて朝を迎えた。


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