暴走堕天使エンジェルキャリアー


[21]秘密会議


ドックに搬入されたラファエルのコクピットハッチの周りに、数名の整備兵が集まっていた。
「ハッチ強制解放…できません!」
「誰かレーザーカッター持って来い!それと医療班、担架だ!」
慌ただしく動いている兵を横目に、同じくドックに搬入されたエンジェルキャリアーの周りに、小笠原と長門、そして数名の兵がライフルを構えて集まっていた。その銃口は、エンジェルキャリアーのコクピットに向けられている。
そして、小笠原がインカムで喋りだす。
「キャリアーのコクピットに居る者、両手を上げて降りてこい。」
暫しの沈黙。
だが、コクピットハッチは開かない。
「長門准尉。」
小笠原が顎を振る。
「はい。」
長門はそう返事し、ゆっくりとエンジェルキャリアーのコクピットに近付く。そして側面のパネルを開き、手元のノートパソコンを繋ぐ。
「…開きます。」
長門のその言葉にあわせ、取り巻きの兵がライフルの照準を合わせる。
鈍い音を立てながら、エンジェルキャリアーのコクピットハッチが開く。



コクピットには鼻血を出しうなだれている九十九の姿があった。
「煤原…一尉…?」
「銃を下ろせ!医療班、こっちにも担架だ!」
小笠原の指示で九十九が担架に乗せられる。その様子を、担架で運ばれていく彩夏が目を細めて見ていた。
「…つーくん…?」
そして二人は揃って、ICUへ運ばれていった。


―数日後。
豪勢な装飾で飾られた薄暗い部屋に、これまた豪勢な大机が置かれていた。
そしてその豪勢な大机を、数人の偉容の男達が囲んでいた。一見して男達の年齢は五十から六十、中にはもっと老齢だと見受けられる男も居た。
そんな高齢な男達の中に一人だけ、場違いだと思われる程若い男が居た。
山本である。
掛け時計の時を刻む音が響く中、一人の男が口を開いた。
「しかし戦争とは金が掛かる。街と設備の補修費も馬鹿にならん。」
男の発言を機に、他の男達も口を開く。
「金の問題もそうだが…情報統制もそろそろ限界だろう。」
「情報統制も山本君、君のところでやっていたね。」
「はい。ですが、幾つかの民放や新聞社が独自に調査を始めています。」
「民放など幾らでも潰せるだろう。」
「ですが、人の口に戸は立てられません。」
そこで一度、顔触れでは一番高齢であろう偉容の男―老人が男を制し、口を開く。
「少々展開が早いが、概ね予定通りであろう。あの国の経済が破綻して数年、我が国が世界の経済を握るには力が必要だ。あの国に頼らぬ新たな力がな。その為の東京、その為のあの兵器…何と言ったかな…」
「―エンジェルキャリアーです。」
「そう、それだ。皆も解っておろう?」
男達は黙ってうなづく。
「我が国の輝かしき未来の為、プロジェクトはb案に移行する。異存は無いな?」
老人の言葉に宿る覇気に、異を唱える者は居ない。
「そういう事だ、山本君。」
「はい。その為の特務隊ですから。」
山本は軽やかに応える。
「では…情報開示は君の所で頼む。山本君は、そうだな…明日付けで統合幕僚長に特進させよう。プロジェクトの裁量は君に任せる。」
「ありがとうございます。」
「では、会議はこれにて。陛下、ご苦労様です。」
男の一人がそう言うと、男達は立ち上がり、老人に向かい敬礼する。老人は「うむ」とうなづき、部屋の外で待機していた数人の男達に促され部屋を後にする。


後日、民放がBEASTとエンジェルキャリアーの存在を明かすスクープニュースを放送し、一連の戦闘の仔細が全国に知れ渡った。
そして、エンジェルキャリアーとそれを擁する自衛軍は「日本を守る軍隊」として、広く大衆の支持を集めた。


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