暴走堕天使エンジェルキャリアー


[19]長門一の憂鬱 後編


「援護は出来んのか!?」
「ラファエルも巻き込みます!」
ラファエルはBEASTの弦に縛り上げられている。管制室には彩夏の悲鳴が響き続ける。
やがてラファエルの身体をBEASTが持ち上げ、空高く放り投げた。
「きゃあっ!」

ズシン。

鈍い音を立てラファエルが墜ちる。そしてBEASTはもぞもぞと、ゆっくりラファエルに近付く。
「援護っ!」
小笠原の檄に合わせ、ウェポンビルからミサイルが掃射される。ミサイルは全て命中するも、BEASTに怯んだ様子も無く、ゆっくりとラファエルに向かって行く。
だが、ラファエルは俯せたまま立ち上がらない。
「二尉、立てっ!」
「う…腕が…」
強気な彩夏の口から、初めて弱気な言葉が漏れる。

「二尉…」
その様子をドックからモニターしていた長門は、手元のノートパソコンを殴りつける。
「くそっ!」
普段見せない激しい怒りに奮える長門に、他の整備兵達は困惑する。
「准尉…?」
「誰かノートを!早く!」
長門は整備兵からノートパソコンを受け取ると、管制室へと走って行った。

「うぅ…」
「二尉!立て!援護だ!撃ち尽くしても構わん!二尉に近付けさせるな!」
BEASTはミサイルを身に受けながら、尚も侵攻を続ける。
「士長、二尉は…ラファエルは何故立てん!?」
小笠原が激しい口調で春日に問う。
「生体インターフェイスに異常感知…ラファエルの左腕の神経が損傷…!?」
「なっ!?」
小笠原は絶句する。
「なんとかならんのか!?」
小笠原が春日に尋ねる。そこに、息を切らした長門が現れ、言う。
「生体インターフェイスのシンクロを30パーセントに!それと、ラファエルのコントロールを私に!…早くっ!」
その剣幕に皆が驚き、長門の言う通りにした。
「准尉…何を?」
「説明は後です!水無月二尉、聞こえますか!?」
「…良っく聞こえるわ…」
「シンクロレベルを30に落としました。立てますか!?」
「…誰に物言ってるのよ…それくらい…!」
ラファエルはふらつきながらも、右手を地に着きゆっくりと腰を上げる。
「姿勢制御、出来ますか?」
「…」
彩夏は応えない。だが、ラファエルはしっかりと両脚を地に着いた。
しかし、BEASTはもう目前に迫ってきていた。
「今からリモートでラファエルをMAモードで再起動、左腕の神経をバイパスして右腕につなぎます。シナプスの逆流に耐えてください。」
「…無茶言うわね…」
ラファエルの首に、BEASTの弦が巻き付く。ラファエルは震える右腕で弦を握り締め、僅かな反抗を試みる。
「っあ…」
彩夏の口から嗚咽が漏れる。長門はトーンを少し落とし、静かに言った。
「絶対に助けます。信じてください。」
BEASTはラファエルを持ち上げ、首を強く絞める。
「…あっ!」

「行きます。生体インターフェイスカット!再起動!」
ラファエルの瞳の光が落ち、右腕が力無くしなだれる。
「シナプスの逆流、始まりました!」
春日が長門に向き返る。長門はとてつもない速さでキーボードを叩いている。
「MAモード高速起動…左腕神経バイパス、伝達系を右腕にパス…もう少し…通常モード高速起動!行けます!」
「ああああああぁぁぁぁぁ!」
彩夏の叫び声と共にラファエルの瞳に再び光が灯り、獣の咆哮を挙げる。


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