暴走堕天使エンジェルキャリアー


[13]水無月彩夏


九十九とエンジェルキャリアーが姿を消してから2週間が過ぎた。
幸いにもその間にBEASTの襲来は無かった。が、特務隊の面々は相変わらず慌ただしく動き回っていた。
なにしろBEASTに対抗出来る唯一の兵器―エンジェルキャリアーと、パイロットの九十九が不在なのだから無理も無いことだった。

たが、そんな不安を一掃する朗報が飛び込んできた。
それは、高根沢で開発中のエンジェルキャリアー2号機が完成したというものだった。

特務隊本部、取り分け技術部門は、新たな兵器の存在に盛り上がっていた。
が、長門は一人、その様子を遠巻きに眺めていた。


バン。

書類が四方に散らかったデスクに、クリップでとめられた分厚い書類が叩きつけられる。
長門だった。そしてデスクには小笠原の姿があった。
「どういうつもりですか?」
長門は珍しく感情を顕にして小笠原に詰め寄る。
「どうもこうも無い。書類の通りだ。」
「新型の配備は助かります。ですが、煤原三尉の捜索打ち切りとはどういう事ですか!?」
「―彼が姿を消してから2週間、何の音沙汰も無い。上はキャリアー共々MIAと認定したそうだ。そして彼は一尉に特進した。以後気をつけろ。」
小笠原は語尾を強めて言った。
「君にも辞令が来ている。1日付けで准尉に昇進だ。」
「っ!」
長門は衝動的な怒りを抑え、唇を噛む。
「わかりました。失礼します。」
そう言って、長門は部屋を出ていった。その様子を見送った小笠原は爪を噛みながら呟いた。
「私とて…納得はしていない。」


2日後、特務隊本部に新型のエンジェルキャリアー2号機が納入された。
白い肌に有機的な三次曲線。1号機との差異はその顔くらいだった。
「これが新型…」
ドックはにわかに盛り上がる。そこに一人の少女が短いスカートを翻し、颯爽と現れた。
少女はキョロキョロと整備士たちの顔を物色すると、長門に目を留め、話し掛けた。
「あなたが主任さんね。ラファエルの整備、頼んだわよ。」
やや刺の立ったぶっきらぼうな言い方に、長門は少したじろいだ。が、直ぐに気を持ち直し、少女に話し掛ける。
「特務隊整備主任の長門一准尉です。あなたは?」
「水無月彩夏。階級は二尉。今日付けで本部に着任。よろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします。二尉。」
長門は右手を差し出す。が、その手は呆気なく無視された。
「ところで…つーくんが行方不明って、本当なの?」
「つーくん?」
「パイロットの煤原九十九よ。キャリアーごと行方不明って聞いたけど…」
「あぁ、煤原一尉の事ですか…」
長門が顔を伏せると、後ろの整備兵達も肩を落とす。
「本当…なの?」
「えぇ…MIAだそうです。」

Missing In Action。
作戦行動中の行方不明―戦死と同じ扱いとなる事を指す用語である。

「そう…」
彩夏も悲しそうに顔を伏せる。
「一尉とはお知り合いなんですか?」
長門が尋ねる。
「うん。昔、ちょっとね。」

そこに突然、慌ただしい警報と春日士長の声が響く。
「東京湾南西距離10000に敵性反応!30分後に本土に上陸します!」
そこに小笠原の声が割って入る。
「海岸での迎撃は間に合わん。キャリアーは本部直上にて待機!急げよ!」
「水無月二尉、準備を!キャリアーを3番ゲートへ!」
長門以下整備兵達も忙しく動き回る。
「つーくん…」
彩夏は胸のロケットを握り締め呟いた。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.