ガイア


[10]召集


エスポワール居住区の避難命令が解除されてから3日が過ぎ、人々は日常の暮らしに戻っていった。グレイスとセシアも、いつも通りのスクールライフに戻っていた。
「グレイス、午後の授業は?」
「ブライアン教授の授業は休講。でも教授が話があるって呼び出されたんだよ。」
グレイスは成績もかなり良く、決して素行の悪い生徒ではなかった。そんな彼が呼び出しを喰らうと言うので、セシアは目を丸くして訊き返した。
「何?何かしたの?」
「何もしてないよ。―多分…」
グレイスはそこで一度、口をつぐんだ。
「多分…何?」
「―いゃ、多分また教授の研究の手伝いだよ。」
先日の避難命令から始まる一連の騒動の中での疑惑。そして、ライアックという男の事。思うところは多々あるものの、セシアに心配をさせない、困惑させない為に、グレイスは優しい小さな嘘を吐いた。
「そっか。わたしは午後も授業だから、ミルクレープパフェはまた今度だね。」
「最近そればっかりじゃん。次の週末にも一回食べにいこうか。」
グレイスの言葉にセシアはにっこりと笑って応えた。そしてセシアは、グレイスに手を振り廊下の階段を駆けていった。

「ブライアン教授、グレイス・サタニーです。」
ノックの数秒後、ブライアンが扉越しにグレイスに応えた。グレイスが扉を開けると、そこにはシズルの姿もあった。
「なんだ、グレイスも呼び出されたのか?」
「シズルもか。じゃあ話ってのはやっぱり…」
机で書類を整理していたブライアンは手を止め、二人に振り向いた。
「先日の騒動について、わたしの所に話が来た。エスポワールは現在、エリュシオンと名付けられた惑星に降り立ち、有人惑星調査を行っているらしい。」
「そう…ですか。」
グレイスとシズルは神妙に話を聞いている。
「それでな…わたしのゼミから2名、一般船外調査人員を派遣するように言われてな。君たち二人に行ってもらおうと思っているのだが。どうかね?」
「はぁ。」
シズルは気のない返事を返してしまった。
「なに、行政のほうで粗方調査は終わっている。君たちは3日間、調査挺で過ごすだけでいい。」
「わかりました。」
二人は頷く。その返事に静かに頷いたブライアンはグレイスに向きなおり、声のトーンを低くして言った。
「予定ではあのライアックという男も行くらしい。サタニー君、」
「わかっています。」
その後、詳しい資料と幾つかの書類を受け取り、二人は退室した。

「グレイス、ライアックって誰だ?」
シズルが尋ねた。
「この間、中央に集まった時に僕らと一緒に居た長髪の男の人だよ。」
「その人がどうかしたのか?」
「―あの人、中央に移ってから僕らと一緒に居たろ?なのに有線も無線も使わずにまだ公表されてなかった調査挺の発進の情報を得ていたんだ。」
「つまり、スタンドアローンでターミナルにハックした、って事か?そんなこと…」
グレイスほどではないが、シズルも成績は良いほうだった。
「ありえない…事を平然とやってのけた、ってことだよ。」
「何者だよ、そいつ。」
グレイスは答えなかった。
(一回調べてみる、か。)

「レベル4にハッキング。グレイス・サタニーか。」
愛車、フェラーリF50のコクピットで、ライアックはつぶやく。
「流石だな。彼になら真実を知る資格がありそうだな。彼にレベル7までの情報を差し上げようか。」

「ライアック・イヴ・ライラック。エスポワール屈指の財閥、ライラック家の当主。―行政にぶっといパイプを持つあのライラック家か…」
グレイスは図書館のパソコンのキーボードを叩きながら、モニターを覗き込む。
「第1大学情報光学科卒業、と。―これだけか?…なら…」
グレイスはポケットから端末を取り出し、パソコンに繋ぎ、ターミナルへの直接侵入を図る。彼は凄腕のハッカーでもあった。
「―?レベル7まで開いてる…違う。これは誘導されてる…―なんだよ、これ…」


3日後、グレイス、シズル、そしてライアックがブリッジに集められ、グレゴリオ操舵士と共にクサントスへ乗り込み、四人はエリュシオンに上陸した。


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