ガイア


[11]夜


クサントスは森を抜け、オリュンポスの麓に到着した。そこでグレゴリオ操舵士から今回の調査任務と、幾つかの注意点が告げられる。
「私とブライアンゼミの二人…えぇ、グレイス・サタニー君とシズル・マッケンジー君。そして、ライラック先生。今回の調査はこのオリュンポス山周辺での野外キャンプに於ける人体への影響。これを測定してもらいます。」
グレゴリオが束になった書類を読み上げる。シズルが説明を待ちきれずグレゴリオに質問した。
「船外キャンプ、ですか?」
「あぁ、」と思い出したように、グレゴリオが書類を各人に渡す。
「書類の通り行政で既に粗方の調査は終わっています。データ上では問題無いですが、惑星はナマモノです。直接人体にどんな影響があるか、キャンプ生活の中でそれを測定します。なにかあれば、クサントスに待機している医療チームに打ち上げてください。」
「確かにデータ上は問題無さそうだね。」
ライアックが口を挟む。
「なに、君たちは文字通りキャンプ感覚で過ごせばいい。データ管理やバックアップはわたしとグレゴリオ氏でやるよ。」
ライアックがグレイス達に言った。
「と、言うことで…何か質問は?」
グレゴリオが皆を見回す。ここで、今まで黙って書類に目を通していたグレイスが手を挙げた。
「この地下坑道というのは…?」
「地下坑道?えぇと…」
グレゴリオが慌てて綴じられた書類をめくる。が、彼より先にライアックが答えた。
「枯渇した地下水脈だと思われる。規模はかなり大きいがね。或いは―」
「知的生命体による構造物、ですか?」
「ははは。まさかね。と、断言してしまうとグレゴリオ氏には面白くないか?」
「そんなことは、」とグレゴリオが笑う。それを見て皆も笑い、クサントスにやわらかい空気が広がった。だが、グレイスだけは、心の底からは笑っていなかった。
(ただの地下水脈跡がレベル6に秘匿されていたとは思えないけど…)
そんなグレイスを見ながら、ライアックは不敵な笑みを浮かべたが、グレイスは気付かなかった。
その後、グレイスとシズルがクサントスを降り、少し遅れてライアックとグレゴリオが続いた。

そして、1日目の夜を迎えた。

「キャンプかぁ。ジュニアハイの林間学習以来だな。」
焚き火に小枝をくべながらシズルが言った。どうやら本当にキャンプ気分のようだった。
「グレイス?」
鍋でカレーを煮込んでいたグレイスにシズルの声は届かなかったらしい。再びグレイスの名を呼んだシズルの声にやっと気付き、シズルに向き返る。
「ん?あぁ、悪い。」
「セシアのこと考えてたんだろ?まったくお熱いことで。カレー、焦がすなよ。」
シズルがグレイスを冷やかす。もちろん、シズルに悪意が無いことをグレイスも分かっている。
やや口が悪く無神経なシズルと、大人しく冷静なグレイス。一見相性の悪そうな二人だが、実はジュニアスクールからの大親友である。
「シズルこそ、ミリアと離れて寂しいんじゃないのか?」
「いいんだよ。今ちょっと距離置いてるから。エスポワールに帰る頃にはオレの有り難みが身に染みてるだろ。なんだかんだ言っても…って。」
シズルの携帯が鳴り、一度会話が止まる。そして、シズルが満面の笑みを浮かべ、グレイスをそっちのけで返事を打っている。その表情を見て、グレイスが声をかけた。
「ミリアか?」
訊かずともシズルの表情を見れば、メールの内容さえ丸解りだった。
そんな彼らから少し離れたクサントスの中では、グレゴリオが二人の心配をしていた。
「彼ら、大丈夫ですかね?」
「ビアッジ氏が問題ないと判断したんだろ?なら大丈夫だろう。」
「そう、ですね。」
そしてグレゴリオはエスポワールのビアッジ艦長に初日調査の報告をした。彼を横目に、ライアックは誰にも聞こえないような小声で言った。
「それに彼らはわたしなどより、よほど丈夫な身体をもっているからな…」


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