第43章


[07]


 不意を打つようなドンカラスの言葉に、何のことか分からずエンペルトは目を丸くする。
「へえ、まったく身に覚えがねえってか。あーあ、何匹泣かすことになるのやら。この色男が」
 言って、ドンカラスは意味深に薄ら笑みを浮かべた。
 どうせまた悪い冗談に決まっている。エンペルトはそう思いながらも、当時の記憶を懸命に探る内、
どうしても思い出せない空白の期間があることに気づいた。
「う、嘘だ。僕は何もしていない、何もしていない筈だポチャ……」
 何だか薄ら怖くなってきて、エンペルトは冷や汗と共に体がカタカタと震え出す。
頭を抱えて取り乱すエンペルトの横で、ドンカラスは何も言わずただニタニタと笑い続けた。
「も、もういい! 早く続きを話してくれ!」
 記憶が無い以上、最早自分の知ったことじゃあない。エンペルトは開き直って震えを強引に払い退け、
半ば叫ぶように言った。
「はて、どっちの?」
「ドンの過去の方に決まっているだろう、変な冗談はいい加減にしろ!」
「へいへい。そんな怒んなよ。その件の事についちゃとりあえず冗談ってことにしといてやらぁ、クハハ」――


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